〈改稿版〉traverse

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 こうして私は、樹深くんと曲作りをする事になってしまった。

「とりあえずさぁ、明日までに歌に入れたい言葉をたくさん考えといてよ。
 俺も考えるけど…出来れば、イッサの言葉を主軸に作りたい」

「えええ~…樹深くん、ムチャクチャ言うね…私の国語の成績、知らないでしょ」

「知らないけど(笑) カンケーないでしょ。
 じゃ、明日、あの場所でね」

 そう言って、樹深くんはギターケースとショルダーバッグを背負って帰ろうとした。

「えっ? ちょっと待って」

「うん?」

「明日…あそこで?」

「うん。なんかマズイ?」

 マズイと思う。

 曲作りの為の打ち合わせとはいえ、樹深くんが歌わずに、私とずっと話し込むなんて。

 樹深くんの歌を楽しみにしている人達がどんな顔をするか。

 …あぁ、アレだ、ナギサの鋭い眼差し。アレを思い出して、体がぶるりと震えた。

「あー…樹深くんのライブの時間を削るのは、ヤダなぁ…」

「そう? 気にしなくていいのに」

 能天気な樹深くん。そりゃまぁ、事情を知らないからね。

「でもそうすると…ここのモーニングタイムにしか、どっぷり話し合えないよ? ちょっと…それだと間に合わないかも」

 うーんと樹深くんが考え込む。私のせいで余計に迷惑をかけちゃってる。どうしよう。

「…あっ」

 私に、ある閃きが降りる。

「ん? ナニ?」

「ねぇ樹深くん。私、ここ以外にいい場所、心当たりある。でも、聞いてみないと分からないから…あとでLINEする。いい?」

「そうなの? じゃあ…任せていい? 連絡待ってる」

「わかった。じゃあね。またね」

 不思議そうな顔をしながら、樹深くんは店を出ていった。

 樹深くんとずっと話していたから、モーニングが手つかずのままだった。

 モグモグと食べながら、私はLINEを開く。まだ寝てるだろうから、電話じゃなくてLINE。

【夜、そっちに顔出すね。相談したい事があるの】

 送信。

 私の提案を受け止めてくれるかな? …元ちゃん。





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