〈改稿版〉traverse
66/171ページ
(★)
無意識にまた両腕をクロスする私を、元ちゃんが正面からそっと抱きしめて、私の首筋に顔を埋めた。
「あ…? やっ…元…っ」
元ちゃんの唇と吐息を肌で感じて、甘い痺れが走る。
普段のトーンじゃない、震えて、高くて、掠れる、私の声。
それを聞くと元ちゃんは、俯く私の顎を持ち上げて、唇を重ねた。
そしてそうしながら、シャツの上からゆっくり…円を描くように、私の胸を揉みしだく。
「ふ……う……」
元ちゃん。元ちゃん。元ちゃん。心の中で何度も連呼する。
元ちゃんが与える刺激に頭がボンヤリする。心臓がドクドクとうるさく叩く。
「…勇実…」
キスの合間に零れる、元ちゃんの声。はあっと息をつくとすぐに、舌が絡み合う。
元ちゃん…今、すっごい…イケナイコトしてる…
この快感に身動きが取れず、涙が滲んだ…
「元ー? まだかー? お客さん入ってきてるぞ、早く来てくれよー」
下から飛ぶ大将の声。
惜しむように、私達は体を離した。
「…ごめん、勇実…」
覗き込みながら、元ちゃんが謝る。
「樹深くんが…とか思ったら…あー、だせぇな…ヤキモチだよ…
…いきなり、恐かったよな? …ごめんな…」
「…ううん…ドキドキしたけど…大丈夫…好きだもん…」
「そっか…
あーっ…ばか、ナニついでみたいにサラッと言ってんだよ…俺の方が…好きだっつーの…
…なぁ…あーもう…行ってこいって言ったの、俺なのにな…
でも、もう…男と二人で出掛けたりするな…友達でも…俺の気持ちが…もたねぇわ…」
「んっ…わか…った…ごめんね…」
「いいよ…俺こそ、狭い男で…ごめん。
…勇実…かわいい…」
最後に軽く唇を重ねて、元ちゃんは下に降りていった。
少ししてから私も下に降りていって、元ちゃんと大将に挨拶してからきたいわ屋を出た。
…樹深くんは、元ちゃんがあんな風に思うって事、お見通しだった?
樹深くんが私達に、特に元ちゃんに気を遣ってたんだって、情けないけど今やっと理解した。
ごめんね樹深くん。私やっぱり、恋愛ビギナーだね。
…