〈改稿版〉traverse

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 (★)

 無意識にまた両腕をクロスする私を、元ちゃんが正面からそっと抱きしめて、私の首筋に顔を埋めた。

「あ…? やっ…元…っ」

 元ちゃんの唇と吐息を肌で感じて、甘い痺れが走る。

 普段のトーンじゃない、震えて、高くて、掠れる、私の声。

 それを聞くと元ちゃんは、俯く私の顎を持ち上げて、唇を重ねた。

 そしてそうしながら、シャツの上からゆっくり…円を描くように、私の胸を揉みしだく。

「ふ……う……」

 元ちゃん。元ちゃん。元ちゃん。心の中で何度も連呼する。

 元ちゃんが与える刺激に頭がボンヤリする。心臓がドクドクとうるさく叩く。

「…勇実…」

 キスの合間に零れる、元ちゃんの声。はあっと息をつくとすぐに、舌が絡み合う。

 元ちゃん…今、すっごい…イケナイコトしてる…

 この快感に身動きが取れず、涙が滲んだ…

「元ー? まだかー? お客さん入ってきてるぞ、早く来てくれよー」

 下から飛ぶ大将の声。

 惜しむように、私達は体を離した。

「…ごめん、勇実…」

 覗き込みながら、元ちゃんが謝る。

「樹深くんが…とか思ったら…あー、だせぇな…ヤキモチだよ…
 …いきなり、恐かったよな? …ごめんな…」

「…ううん…ドキドキしたけど…大丈夫…好きだもん…」

「そっか…
 あーっ…ばか、ナニついでみたいにサラッと言ってんだよ…俺の方が…好きだっつーの…
 …なぁ…あーもう…行ってこいって言ったの、俺なのにな…
 でも、もう…男と二人で出掛けたりするな…友達でも…俺の気持ちが…もたねぇわ…」

「んっ…わか…った…ごめんね…」

「いいよ…俺こそ、狭い男で…ごめん。
 …勇実…かわいい…」

 最後に軽く唇を重ねて、元ちゃんは下に降りていった。

 少ししてから私も下に降りていって、元ちゃんと大将に挨拶してからきたいわ屋を出た。



 …樹深くんは、元ちゃんがあんな風に思うって事、お見通しだった?

 樹深くんが私達に、特に元ちゃんに気を遣ってたんだって、情けないけど今やっと理解した。

 ごめんね樹深くん。私やっぱり、恋愛ビギナーだね。





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