わけがわからず、樹深くんのボディバッグを抱きしめてコンビニの入口の脇に立っていると、樹深くんがすぐに出てきた。

　手にはビニール傘とバスタオル。

　バスタオルを私の頭からパサッと掛けて、私からボディバッグを取って、ポンッと傘を開いた。

「え、樹深くん？　いいよ、樹深くんが先に使ってよ」

　バスタオルを剥がそうとすると、

「いいから！」

　樹深くんの強い声。目を見開くと、樹深くんはハッとなって、

「…ごめん、とにかく、いいから。イッサが使ってて。頭拭いて、肩から掛けてて。行くよ。早く…行こう」

　一緒の傘だから先に行ってしまう事はないけど、また、早歩き。

　樹深くんの突然の態度がわからなくて、ボディバッグを摘まむのもためらわれて、樹深くんの速度に必死についていく。

「まさか、雨にふられるなんてなぁ」

「うん」

「通り雨かなぁ、すぐ止むといいな」

「うん」

　樹深くんのひとりごと、私に向けられてないって分かってるのに、相槌を打ってしまう。

　傘を打ちつける雨音がこんなにもうるさいのに、樹深くんの声はよく通る。それが、この時ばかりは虚しさを感じた。



　そうしている内に、もう商店街の入口に着いた。

「はい」

　ここでやっと視線が絡んで、樹深くんが傘を私に持たせる。

「え？　ダメだよ、樹深くんが買った物なのに。樹深くん、濡れて帰るつもり？　風邪ひいちゃうよ」

「いいの。イッサが持って。傘も。タオルも。俺はもう、そこ降りちゃえば地下鉄だから、濡れないよ」

「そうだけど…」

「…あのねえ、イッサ」

　煮え切らない様子の私に、ふぅと息をついて目を伏せた樹深くん、こう続けた。

「そりゃあさ、天気には勝てないけどさ…もうコドモじゃないんだからさ…
　…見えてるから」





…