〈改稿版〉traverse

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 商店街の最寄りの駅まで歩いていく事になった。

 今まで、樹深くんがどこに住んでいるかなんて知らなくて、聞くこともしなかったけど、今日色々話していく内に、スタジアムの最寄り駅から3駅ほどいった所に住んでいる事が判明した。

 だったら、スタジアムの最寄り駅でバイバイでもよかったのに。商店街の駅からだと、樹深くんの駅に行くには乗り換えしなきゃならないから、面倒なんじゃ? そう思ったけれど、

「商店街まで送っていくから。女の子を夜道ひとり歩かせられません。
 商店街からはおひとりでどうぞ。どうせ、元さんのとこに顔出しに行くでしょ?」

 樹深くん、私の保護者ですか?(笑)

 まぁ、もう22時になる勢いだし、ごもっともだなと思い、こうして歩いている。

「…ん?」

 商店街まであと半分くらいに差し掛かった頃、頬に何か当たった感触。

「イッサ? どうした?」

「今、雨? 降ってきたような?」

「え、うっそ」

 空模様どうだっけ、と二人で見上げた途端、ボタッ。ボタボタボタッ。大粒の雨が地面を打ち付ける。

 シャワーに打たれたみたいに、私達はあっという間にずぶ濡れになった。

「ひゃあっ! 今日、雨降るなんて言ってたっけ!?」

「あっ、イッサ、あそこ、コンビニで傘買おう」

 ちょうど、道路の向かい側にコンビニがあった。車に気を付けながら、横断歩道のない所を足早に横切る。

 辿り着いて、中に入ろうとしたら、

「待って」

 後ろから樹深くんに手首を掴まれた。

 ビックリして振り向いたら、同時に樹深くんのボディバッグが正面に飛んできた。

「ここにいて。それ持ってて」

 財布だけ持って、樹深くんはコンビニの中へ入ってしまった。





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