〈改稿版〉traverse
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喫茶KOUJIを出る前に、元ちゃんに電話を掛けた。寝起きだったらしく、むにゃむにゃとだるそうに出てくれた。
樹深くんが今日なら行けると言うから行ってもいいかと聞くと、一瞬間があって、
「…すぐに見つかってよかったな。てか、わざわざ確認取らないでいいのに。
楽しんでこいよ。樹深くんにもよろしく言っといてくれ」
と答えてくれた。ほらやっぱり、元ちゃんはそう言うと思った。
その後すぐに樹深くんに電話して、ナイターは18時開始なので、17時半にスタジアムのゲートの前で待ち合わせることになった。
「じゃ、俺、今から寝るから。イッサも家でノンビリしてなよ」
そう言って樹深くんは電話を切った。
そういえば樹深くんは夜勤明けだった。それなのに、付き合わせる事になっちゃって申し訳なかったな、と今更だけど思った。
でも、初めての野球観戦に行く事に気持ちが高揚して、申し訳なさはすぐにしぼんだ。
早く時間にならないかなぁー。どこの小学生だっていうくらい、家でゴロゴロジタバタとせわしない。気持ちは全然ノンビリじゃなかった。
そして、約束の時間。
スタジアムは商店街から、少し距離はあるけれど歩いて行ける所にある。
待ち合わせ場所の、広場のある正面ゲートに近づくと、すでに樹深くんが到着していた。
「イッサ、こっちこっち」
「樹深くん。ゴメン、待った?」
「いや、来たばかりだよ」
「夜勤明けだったのにゴメンね。ちゃんと寝てきた? 私は早く行きたくて、結局ノンビリ出来なかったよ」
ナニやってんの、って呆られるかと思ったのに、
「俺も。楽しみ過ぎて、結局あんまり寝られなかった」
肩を竦めてニヒッと無邪気に笑う樹深くん。こんな笑顔もするんだなぁ。私もつられて、おんなじような笑い方をした。
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