〈改稿版〉traverse

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 金曜日。

 大将が買い出しで外へ出ている間、私はニヤニヤしながらきたいわ屋の開店準備をしていた。

 元ちゃんが、私がプレゼントした梵字が織り込まれた青いタオルを頭に巻いてくれてる。

「なにニヤついてんだよー。この辺の筋肉、疲れねぇのか?」

「いひゃい、元ちゃん」

 元ちゃんにほっぺたを摘ままれて、そのまま喋ったらゲラゲラ笑われた。

 だって、使ってくれて嬉しいんだもん。

 …あ。樹深くんが言ってくれた事、今、伝える時なんじゃない?

「ねぇ、元ちゃん…スキだよ」

「えっ」

 元ちゃんが持っていた菜箸を落としそうになった。

「オマエ…そんなこと言うキャラだっけ?」

 えーっ? 今、恥ずかしいのをこらえて言ったのに!

「…だって、付き合ってるんだし…」

「まあ…そうなんだけどなぁ…
 まさかオマエから、そう言ってくれるって思ってなかったし…
 俺ばっかり、好き好き言うもんかと…
 ……
 ……
 あーっ、もう! 勇実、ちょっとこっち」

 元ちゃんに急に袖を引っ張られて、調理台の下にしゃがまされた。

「え、ちょっと、元ちゃん?」

 どうしたの? まで言い終わらなかった。

 袖を掴まれたまま、元ちゃんがふと距離を詰めてきて──私の唇を塞いだから。

 え。

 え。

 キス、されて、る。

 この状況を理解した時、私の頬が発火したみたいに熱くなった。





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