〈改稿版〉traverse

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「えっ、なに? いつもカウンターで食べろって言うのに?」

「いいからいいから」

 元ちゃんに言われて、不審感を抱きつつすぐそこのテーブル席に着いた。

 私は、このお店でバイトの時は出勤前に軽く食べて、終わる頃に大将や元ちゃんが作ってくれる夜食のラーメンを頂く。それを食べてから家に帰るのが日課になっていた。

 でも、今日のこの時は。

「ジャジャーン!」

「えええーっ!!」



【イサミちゃん 21才 おめでとう】



 そんなチョコレートプレートが乗った、イチゴいっぱいのホールケーキが私の目の前に置かれた。

「おーっ、なに、勇実ちゃん、今日誕生日なの?」

「そうですけど、あれ、なんで? どうして知ってるの?」

 お客さんたちの盛り上がりを受けつつ、元ちゃんに疑問を投げ掛ける。

 元ちゃんは大将と顔を見合わせて、にやりと笑った。

「履歴書。勇実の誕生日、なんか覚えやすいな?」

 5月25日。たしかによく言われる。

 元ちゃんってば、いつの間にケーキなんて用意したんだろう。あ、出前の時かな。

「皆さん、グラス持って下さい。
 あ、勇実はこれ、ジンジャーエールな。自転車で帰るヤツに酒なんて飲ませられるか。
 それじゃあ、ま、おめでとう」

「カンパーイ!!」

 カチカチカチン、皆のグラスを合わせた音が響いた。

「皆さん…ありがとうございます!
 ひとりじゃ食べきれないから…皆さんも手伝ってね?」

「あたり前だ、独り占めする気か!」

 元ちゃんに肩の辺りを軽く体当たりされて、また皆の笑いを誘った。





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