〈改稿版〉traverse
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あー、あれ? あの後私、どうやって帰ってきたっけ?
そうだ、元ちゃんはバイクで来たから、駅でバイバイしたんだった。
駅までの道、楽チンなエスカレーターのある方に行って、たわいもない話をしてた…んだと思う。全然頭に入ってこなかったけど。
「じゃ、また明日。店でな」
駅に着いて、元ちゃんはそう言って駐輪場の方へ消えていった。
私、元ちゃんに告白されちゃった。
私、ちゃんと返事してないよ。
私と元ちゃん、付き合うの?
元ちゃんの事は、キライじゃない。
からかってばかりだけど、なんだかんだで優しいし、話は尽きないし、退屈しない。
そんな時間がこれからも続くのなら、いいのかも。
けど。
けど、なんだろう。ナニが、私の気持ちにブレーキをかけているんだろう。
うんいいよ、付き合おう、って、なんですぐに出なかったんだろう。元ちゃんとなら、きっと大丈夫だろうに。
モヤモヤしたまま、あっという間に翌日のきたいわ屋の勤務時間になった。
お店の引戸を開けると、
「おー、勇実ぃ。おつかれ」
元ちゃんがいつもの様子で、カウンターの向こうから声を掛けた。
それにちょっぴりホッとした私、「おつかれ、元ちゃん」と返して、開店準備に取り掛かった。
でも、それから外にのれんを掛けるまで、ずっと無言だった。私も、元ちゃんも、そして何故か大将も。私と元ちゃんの雰囲気がいつもと違う事、気付いたのかな。
のれんを持って外に出ようとした時、元ちゃんがカウンターからこちらに出てきて、私の傍に来た。
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