〈改稿版〉traverse
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元ちゃんとは、映画館の最寄り駅で待ち合わせをしていた。
「お、来た来た。おはよ」
元ちゃんが私に気付いて、吸っていたタバコを携帯灰皿に押し付けて火を消した。
あ…使ってくれてる。
ニヤニヤしながら近づいたから、「きもちわりぃ」と元ちゃんにデコピンされた。
「さぁ、行くかぁ」
「うん」
歩き出す元ちゃんの後ろをついていく。
最寄り駅とはいえ、映画館まではそこからさらに歩く。
「元ちゃん、こっちから行こ」
「うん?」
ボートや屋形船が浮かぶ運河を横目に、昔汽車が通っていたという道を通る。
今日はいい天気。ここは海が近い。心地よい風に潮の香りが乗って、息を吸い込むとすごくいい気分。
遠くの水平線をずっと眺めていたい衝動に駆られたけど、今日はそれはガマン。
時間がある時は、ここまで自転車を漕ぐ事があるので、この辺りも私のホームグラウンド。
「こんな道あったんだなぁ。知らんかった」
「えーっそうなの? どーせあれでしょ? 元ちゃん、あっちの道のエスカレーターで楽チンしてたんでしょ。
ダメだなぁ、やっぱりおじさんに一歩一歩近づいてるよー」
「こんにゃろ!」
「あははぁ」
じゃれあいながら歩いてたら、あっという間に映画館に着いた。
あれ、そういえば、何の映画を観るんだろう?
元ちゃんに聞こうとする前に、元ちゃんはとっくに窓口でチケットを買っていた。
持っていた財布に、私がプレゼントしたウォレットチェーンがジャラッと揺れる。
使ってくれてる、またニヤニヤしそうになったけれど、元ちゃんがチケットを持ってこちらに戻ってきたので、慌てて顔を引き締めた。
「勇実ぃ、オマエ、ホラー平気?」
え? ホラー?
…