〈改稿版〉traverse

41/171ページ

前へ 次へ


 元ちゃんとは、映画館の最寄り駅で待ち合わせをしていた。

「お、来た来た。おはよ」

 元ちゃんが私に気付いて、吸っていたタバコを携帯灰皿に押し付けて火を消した。

 あ…使ってくれてる。

 ニヤニヤしながら近づいたから、「きもちわりぃ」と元ちゃんにデコピンされた。

「さぁ、行くかぁ」

「うん」

 歩き出す元ちゃんの後ろをついていく。

 最寄り駅とはいえ、映画館まではそこからさらに歩く。

「元ちゃん、こっちから行こ」

「うん?」

 ボートや屋形船が浮かぶ運河を横目に、昔汽車が通っていたという道を通る。

 今日はいい天気。ここは海が近い。心地よい風に潮の香りが乗って、息を吸い込むとすごくいい気分。

 遠くの水平線をずっと眺めていたい衝動に駆られたけど、今日はそれはガマン。

 時間がある時は、ここまで自転車を漕ぐ事があるので、この辺りも私のホームグラウンド。

「こんな道あったんだなぁ。知らんかった」

「えーっそうなの? どーせあれでしょ? 元ちゃん、あっちの道のエスカレーターで楽チンしてたんでしょ。
 ダメだなぁ、やっぱりおじさんに一歩一歩近づいてるよー」

「こんにゃろ!」

「あははぁ」

 じゃれあいながら歩いてたら、あっという間に映画館に着いた。

 あれ、そういえば、何の映画を観るんだろう?

 元ちゃんに聞こうとする前に、元ちゃんはとっくに窓口でチケットを買っていた。

 持っていた財布に、私がプレゼントしたウォレットチェーンがジャラッと揺れる。

 使ってくれてる、またニヤニヤしそうになったけれど、元ちゃんがチケットを持ってこちらに戻ってきたので、慌てて顔を引き締めた。

「勇実ぃ、オマエ、ホラー平気?」

 え? ホラー?





41/171ページ
スキ