〈改稿版〉traverse

40/171ページ

前へ 次へ


 翌日。月曜日。

 カラカラン♪

 喫茶KOUJIの扉を開けたのは…樹深くん。

「アレッ?」

「おはよー、樹深くん。ズズズッ」

 いつもの窓際の席、ではなく、カウンター席で食後のコーヒーを頂きながら、樹深くんの声に振り返った私。

「イッサ? なんでこんなに早いの? なんでこっちの席にいるの?」

 目を丸くしながら、樹深くんが私の隣に座る。

「あー。今日ね、朝イチで映画観るの。元ちゃんと」

「ふーん? そうなんだ? あ! もしかしてそれが、誕生日プレゼント?」

「うーん? どうなんだろう? あ、いや、物はちゃんと昨日渡したよ。
 あー、喜んでくれたかなぁ? 今日逢って、その反応を見るのが、なんかちょっとヤダ」

 はあ~、と深い溜め息をする私に、樹深くんがケラケラ笑う。

「ナニ言ってんだか。大丈夫に決まってるでしょ。
 それにしても、ふーん、おデートですねぇ」

「はっ? デート…? ちがう、ちがうから。
 …やだなあ、樹深くん。からかわないでよ」

 樹深くんがニヤニヤして言うから、反射的にバシッと二の腕をはたいた。

「あたた。まあ、いいけど。映画朝イチだって? そろそろ出ないとマズイんじゃない?」

「あっ! ほんとだ、行かなきゃ…マスター、ごちそうさま! 樹深くん、またね!」

 腕時計を見て慌てた私は、モーニングのお代をカウンターに置いて、外へ飛び出した。

 走りながらお店の窓を見ると、樹深くんがコーヒーを飲みながら、ヒラヒラと手を振っていた。

 それだけでなんか、心が落ち着いた。

 私がカウンターの席に座ったのは…樹深くんに見送って貰いたかったからだと思う。





40/171ページ
スキ