〈改稿版〉traverse

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「はーじーめーちゃん」

 7月7日。日曜日の夜、私は元ちゃんのプレゼントを持って、きたいわ屋にやってきた。

「おー勇実ぃ。プレゼント持ってきたか? くれくれ」

「もー。そんなに催促するなら、あげない!」

「あっウソウソ。勇実サマ、もしよければ、裏口まで来て下さいますか?」

「え? 裏口?」

 何故かお店の裏口に誘導される。不思議に思ったけど、元ちゃんの言う通りにした。

 しばらくして、ガチャリと元ちゃんが中から出てきた。

「いいの? 大将ひとりで大丈夫?」

「うん? いいのいいの。ちょうど客足引いたから、休憩貰うとこだったんだよ」

「そうなの? ならよかったけど。
 はい、お誕生日おめでとーございます」

 元ちゃんに、プレゼントの入った紙袋を渡す。

「うは、サンキュー。なんかいっぱい、くれるのね?」

「まぁ、いつもお世話になってますから。
 あ、開けるのは帰ってからにしてよ? なんか恥ずかしいし」

「なんでよ(笑) ま、分かったよ。後でゆっくり見るな」

「うん、そうして。じゃ、また、火曜日にね」

 帰ろうとすると、

「あのさあ」

 元ちゃんが呼び止めた。

「んっ? なに?」

「オマエ、明日休みだろ?」

「うん」

「今日、俺の誕生日じゃん?」

「うん。だから、おめでと」

「うん。まあ、ありがと。
 でさあ、七夕でもあるじゃん?」

「? うん」

「願い事、叶う日じゃん?」

「うん…そう、かな?」

「あー、その、だからさ」

 そこまで言って、元ちゃんが急に俯いて、首をポリポリ掻いたりして落ち着かない。

 ?マークで頭をいっぱいにしていると、元ちゃんが姿勢を正して、まっすぐに私を見て言った。

「明日、店が始まる前に、俺と映画観に行かねぇ?」





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