〈改稿版〉traverse

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 ザーザーと雨が降りしきる中、私と元ちゃんはひとつの傘で並んで歩いた。

「おっきい傘だねぇ。メンズでも大き過ぎない?」

「だなぁ。残ってたのがこれでよかったな?」

 私達のクスクス笑う声と、雨を弾く傘の音が、なんかいい感じのハーモニー。

「それで? あの後図書館行ったら、あのにいちゃん…樹深くんがいたってワケ?」

「そうなの! その時もね、色々失礼な事を…あーっ、もうっ、ターツーミーめー」

「ぎゃはは。勇実がそんなにプリプリするの、珍しいよなぁ。
 樹深くんかぁ。俺が戻った時まだいるといいな。ちょっと、深く話してみたい(笑)」

「ちょっと! そんな事言って、私の悪口で盛り上がる気でしょー!?」

「へへ。ばれた?」

「もうー(笑)」

 同じようにからかわれているのに、元ちゃんと樹深くんでなんでこんなに感じ方が違うんだろう。

 元ちゃんだったら、何でも笑い話に出来る。

「彼、いくつだろう? 一見大人びた感じだけど、笑うとあどけないよな」

「私知ってるよ、23」

「んっ? 俺と同い年かよ」

「えっそうなの? あ、樹深くん、私と同じ誕生日なんだよ」

「あー? だったら、いっこ下かぁ。ふーん」

「え、元ちゃん24になるの? おじさんにまた一歩近づくね。いつ?」

「オマエ…今さらっとヒデェ事言ったな。
 7月7日、覚えやすいだろ? 期待してるぞ」

「えー? しょーがないなー。ケーキ買ってくれたもんね。いいよ、なんか考えとく」

 そうこうしている内に、樹深くんがよくいるあの街灯とベンチの所まで来た。

 樹深くんはここで歌うんだよ。

 …元ちゃんに言えなかった。

 樹深くんは、ここの事を内緒にしておきたいんじゃないか。通りすがった人だけのヒミツにしておきたいんじゃないか。

 …そんな風に、考えた。

「勇実? 勇実んち、遠いなぁ」

「そうだよぉ。商店街の端っこまで出ないとね」

 元ちゃんとそんな会話をしながら、街灯とベンチを横目に通り過ぎた。





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