〈改稿版〉traverse
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~side Tatsumi~
商店街の一画に、織田桐さんプロデュースのライブハウスが最近建てられて、その2階でラジオ番組をやらせてもらっている。
スタジオなんてたいそうなものじゃなくて、ほんとに自宅にいるような、まったり空間の放送局。
機材なんかはテーブルひとつで事足りる程度の小さな物だけど、それでも立派にラジオ番組は出来る。
マイクの向こう側の人達に向けて、路上で歌う時と同じように心を込めて、たわいもない話をする。
「…それでは、リクエスト頂いた曲、もうすぐこの季節ですね。○○の【△△】」
曲のイントロが流れ、自分のマイクのスイッチをオフにする。
すると、ブースの外の扉が開かれるのが視界に入った。
勇実が顔だけ覗かせて、キョロキョロしてる。俺に視線を留めて、
(電波使ってワガママ言ーわーなーいーの!)
と口パクをした。ナニアレ。面白過ぎなんですけど。
俺は(ゴメン)とジェスチャーをして、(入って入って)と手招きをした。
勇実は渋々とブース内に入ると、大きなバスケットをサイドテーブルに置いて、喫茶KOUJIの本日のランチを出して並べた。
「もうすぐ曲明けるから、そしたらそのマイクのスイッチ入れてね」
「えーっ。喋らないとダメなの?」
ぶーたれながらも、手はすでにマイクのスイッチの位置(笑)
「…○○で、【△△】でした。
さて! ここでスペシャルゲストです。
僕のお昼ごはんを持ってきてくれた、マッサージ屋さんのイッサ先生です」
「ちょっと! 電波使ってイッサって言わないでー!
あのねぇ樹深くん、アナタがちょいちょいこの番組で私の名前出すからね、店でも、商店街歩いてても、イッサ先生って呼ばれるのよ。
恥ずかし過ぎるんですけど」
「あは、そうなの?
この番組宛てにもね、リスナーの方から、イッサの事が気になる! ってよく来るから、そんならいっそ、ここに来て話してもらおうかと思って」
「あー、だから、オンエア中に出前? まったくもう…」
…