〈改稿版〉traverse
169/171ページ
カラカラン♪
この町に再び住みだした私はまた、以前と同じように月曜日が週末。でも、以前と違ってモーニングじゃなく、ランチの時間帯に喫茶KOUJIの扉を開ける。
「いらっしゃーい、勇実ちゃん。
彼のラジオ、もう始まってるヨ」
「分かってます分かってます。マスター、今日のランチはナニ?」
「海の幸たっぷりシーフードピラフでございまぁす」
「あは、美味しそう!」
私はいつものカウンター席に座って、ラジオから流れる樹深くんの声を聴く。
帰国してからの樹深くんは大忙しだった。
てっきりCDデビューするもんだと思ってたけど、それはまぁ、いつかは出来たらと考えているらしい。
今は、作った楽曲を色んな所に提供したり、他のアーティストライブのバックバンドに参加したり、メインはラジオ番組2本。
1本は、AMラジオの朝の帯で平日1時間放送。
もう1本は、月曜の正午を跨ぐ2時間番組、今聴いてるヤツ。これ、超ローカル放送で…商店街とその周辺でしか流れない。
織田桐さんの発案で、地元密着の放送局を作りたいと…樹深くんの好きなようにやってよいと言われたそうだ。
樹深くん、すごく楽しそう。
毎週月曜日、私はこのラジオ番組が終わる頃を見計らって、樹深くんに喫茶KOUJIのランチを届けるという使命がある。
それまではここでノンビリ、自分のランチを堪能するのだけど…
「勇実ちゃん? 今日はそんなノンビリしてらんないよ?
ハイ、コレ持って」
「へ?」
マスターから突然手渡された、大きなバスケット。
「勇実ちゃんの分も入ってるから。彼によろしくネ」
???
全く話が見えてこない私に、マスターはクイクイとラジオを顎で差した。
【はー。おなかすいたなぁ。
僕ね、いつも、このラジオ終わってからお昼ごはん食べるんですけどね。
オンエアでおなかの音流れないか、けっこう冷や冷やしてるんですよ。
はー。ごはん、持ってきてくれないかなぁ。
どこかの、優しい誰かサン(笑)】
…はーー???
ソレ、職権濫用っていうんじゃないの、樹深くん。
…