〈改稿版〉traverse

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 カラカラン♪

 この町に再び住みだした私はまた、以前と同じように月曜日が週末。でも、以前と違ってモーニングじゃなく、ランチの時間帯に喫茶KOUJIの扉を開ける。

「いらっしゃーい、勇実ちゃん。
 彼のラジオ、もう始まってるヨ」

「分かってます分かってます。マスター、今日のランチはナニ?」

「海の幸たっぷりシーフードピラフでございまぁす」

「あは、美味しそう!」

 私はいつものカウンター席に座って、ラジオから流れる樹深くんの声を聴く。

 帰国してからの樹深くんは大忙しだった。

 てっきりCDデビューするもんだと思ってたけど、それはまぁ、いつかは出来たらと考えているらしい。

 今は、作った楽曲を色んな所に提供したり、他のアーティストライブのバックバンドに参加したり、メインはラジオ番組2本。

 1本は、AMラジオの朝の帯で平日1時間放送。

 もう1本は、月曜の正午を跨ぐ2時間番組、今聴いてるヤツ。これ、超ローカル放送で…商店街とその周辺でしか流れない。

 織田桐さんの発案で、地元密着の放送局を作りたいと…樹深くんの好きなようにやってよいと言われたそうだ。

 樹深くん、すごく楽しそう。

 毎週月曜日、私はこのラジオ番組が終わる頃を見計らって、樹深くんに喫茶KOUJIのランチを届けるという使命がある。

 それまではここでノンビリ、自分のランチを堪能するのだけど…

「勇実ちゃん? 今日はそんなノンビリしてらんないよ?
 ハイ、コレ持って」

「へ?」

 マスターから突然手渡された、大きなバスケット。

「勇実ちゃんの分も入ってるから。彼によろしくネ」

 ???

 全く話が見えてこない私に、マスターはクイクイとラジオを顎で差した。



【はー。おなかすいたなぁ。
 僕ね、いつも、このラジオ終わってからお昼ごはん食べるんですけどね。
 オンエアでおなかの音流れないか、けっこう冷や冷やしてるんですよ。
 はー。ごはん、持ってきてくれないかなぁ。
 どこかの、優しい誰かサン(笑)】



 …はーー???

 ソレ、職権濫用っていうんじゃないの、樹深くん。





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