〈改稿版〉traverse
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「~~~!!」
ちょ、ちょ、ちょーっ、とーー!
樹深くんの胸を平手でペシペシと叩く、でも、樹深くんは止めない。
唇の間になんとか空間を作って、
「だから、人いるってば!
あと、ヒゲが痛いっ…」
掠れ声で抗議しても無駄だった、すぐに塞がれてしまう。
「あーあ…イッサ、こんなにキレイになっちゃって…
でも…中身は変わってないから…安心した…」
私の唇を吸いながら、樹深くんは呟いた。
そういう樹深くんも、向こうで揉まれた甲斐あって、かなり精悍な顔つきになってるし…ドキドキしちゃうよ。
でも声を聞けば、ちっとも変わらない、いつもの樹深くん。
ずっと、すぐ傍で聞きたかった声が今、私の耳を擽っている。
「イッサぁ…もうちょっとだけ…
誕生日、おめでとう。
大好き。
…あいしてる」
「…私も…
大好きだよ。
お誕生日、おめでとう。
樹深…?
…あいしてる」
そう言ったら、樹深くんが瞬時に頬を赤らめて、掠れた声で囁いた。
「…あーっ…もう…
イッサは…相変わらず…ズルいんだから…
勇実?
ずっと俺のそばにいて…」
私23歳、樹深くん25歳、新緑が鮮やかな眩しい季節の、私達の誕生日。
歩道と車道が交差する、私達が出逢えたこの場所で、通りすがる人達の目を気にしながら…最終的には気にするのをやめてしまったけど…私達は時間の許す限り、狭苦しいフードの中で甘く囁き合った。
…