〈改稿版〉traverse

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「えっ元ちゃん、覚えててくれてたの? ありがとーっ。まだ誰にも言われてなかったから、嬉しいよ」

「んあ? まじか。樹深くんはどーしたのよ」

「今日はまだ電話来てない。向こうは今夜中だから、仕事終わったら掛けてみようかな」

「へーへー。相変わらず…仲がよろしいことで。
 で? 今日も味噌でいいのか?」

「ウン。宜しくお願いします。
 …あっそーだ! 元ちゃん、前々から言おうと思ってたんだけどね。
 味噌の味、前と変わったよね?」

「え? あ、あー。まあ。ウン」

「それも美味しいけどさ…なんで?」

「えーと。まぁ、いいじゃねーか」

 何故か答えにくそうな元ちゃん。

 不審に思っていると、元ちゃんの後ろからひょこっと、新しいバイトの北川くんが顔を出して、

「勇実さん、聞いて下さいよ!
 にーさんったらね、ジョーダンで看板の醤油と味噌混ぜたの作ったら、帆乃夏ほのかがすごい美味しいってベタ誉めで。
 それ以来、さっぱり味噌があんな感じになっちゃったんすよ」

と、キシシと笑いながら言った。

「ほのか?」

「そうっす! あ、帆乃夏って、俺の高校の時の女友達なんすけど。
 こないだ食べに来てくれて、そんな感じだったんす」

「ばっ、北川! 勇実に余計な事言うな!」

「へえ、ほのかちゃん。へえ~。
 それで味噌が。へえ~」

「そうっす! にーさんにも、春が来たっす!」

「オーマーエーなぁ!!」

 あはは。元ちゃん、うろたえちゃって。北川くんにもすっかり転がされて、やっぱり元ちゃんは面白くて楽しい。

「ったく…ほれ、味噌お待ちどお。
 やっぱり、前のやつの方がいいか?」

「ナニ言ってんの、これも美味しいよ。
 元ちゃん、よかったね。今度紹介してね」

「ばっか…だから、そんなんじゃねぇんだってば」

 ポリポリと頬を掻きながら、元ちゃんは苦笑いをした。





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