〈改稿版〉traverse
160/171ページ
「え…」
私が、樹深くんを?
そんなわけない、と口を開きかけると、樹深くんが続ける。
「俺と勇実が同じ気持ちって知って、こんな…コトもしちゃって、多分俺、抑えがきかない…
自分の思うままに動いてしまったら、俺、きっと勇実の怖い思いを掘り起こしてしまう…」
私はハッとした。樹深くんは、あのサナダにされた事を言っているんだ。
あれから4ヶ月になろうとしている…
その間、私は幾度となく樹深くんに触れている。樹深くんに対して嫌悪を感じた事なんてなかった。
樹深くんを避けてた、あの訳の分からないドクドクに振り回されていた時でさえ、一度すら思わなかったのに。
「…だからさ、俺、もう十分だから。
勇実に好きって言えて、勇実から好きを貰えて、勇実と…キス出来て、それで十分。向こうでがんばれるから。
…電車に乗せてやれなくてゴメン。タクシー捕まえるから、それで…」
樹深くんがそう言いながら、ゆっくりと私との間を広げる…
「…樹深くん!」
否応なしに寂しさを感じて、私は悲鳴混じりに叫んだ。同時に樹深くんの胸元にギュッとしがみつく。樹深くんは驚いて私を見た。
「…勇実…?」
小さい声で呼び掛ける樹深くんは、耳まで真っ赤にしていた。
「…樹深くん…」
「…ウン…?」
──今、この場で、おしまいにするのは、イヤダ。
この思いの丈を、樹深くんにぶつける。
「私…もう平気だから…やな思いなんてしないから…
私、樹深くんが好き…
だから…だからね…私…樹深くんに…」
全てを言い終わらない内に、樹深くんに唇を塞がれた。
勇実にこんな事言わせるなんて、俺ダメ過ぎるって、うわごとみたいに言いながら、樹深くんは唇から眉間、額、耳、首筋、あらゆる箇所に自分の唇を這わせた。
その摩擦にすっかりぼうっとなった私は、
「勇実? 俺の方が大好き。
勇実のハジメテ、ちょうだい。
俺のハジメテ、あげる」
樹深くんのその、掠れた声を聞かされて、抑えがきかないのは私の方だと…霞む頭の中で思った。
…