〈改稿版〉traverse

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「え…」

 私が、樹深くんを?

 そんなわけない、と口を開きかけると、樹深くんが続ける。

「俺と勇実が同じ気持ちって知って、こんな…コトもしちゃって、多分俺、抑えがきかない…
 自分の思うままに動いてしまったら、俺、きっと勇実の怖い思いを掘り起こしてしまう…」

 私はハッとした。樹深くんは、あのサナダにされた事を言っているんだ。

 あれから4ヶ月になろうとしている…

 その間、私は幾度となく樹深くんに触れている。樹深くんに対して嫌悪を感じた事なんてなかった。

 樹深くんを避けてた、あの訳の分からないドクドクに振り回されていた時でさえ、一度すら思わなかったのに。

「…だからさ、俺、もう十分だから。
 勇実に好きって言えて、勇実から好きを貰えて、勇実と…キス出来て、それで十分。向こうでがんばれるから。
 …電車に乗せてやれなくてゴメン。タクシー捕まえるから、それで…」

 樹深くんがそう言いながら、ゆっくりと私との間を広げる…

「…樹深くん!」

 否応なしに寂しさを感じて、私は悲鳴混じりに叫んだ。同時に樹深くんの胸元にギュッとしがみつく。樹深くんは驚いて私を見た。

「…勇実…?」

 小さい声で呼び掛ける樹深くんは、耳まで真っ赤にしていた。

「…樹深くん…」

「…ウン…?」

 ──今、この場で、おしまいにするのは、イヤダ。

 この思いの丈を、樹深くんにぶつける。

「私…もう平気だから…やな思いなんてしないから…
 私、樹深くんが好き…
 だから…だからね…私…樹深くんに…」

 全てを言い終わらない内に、樹深くんに唇を塞がれた。

 勇実にこんな事言わせるなんて、俺ダメ過ぎるって、うわごとみたいに言いながら、樹深くんは唇から眉間、額、耳、首筋、あらゆる箇所に自分の唇を這わせた。

 その摩擦にすっかりぼうっとなった私は、

「勇実? 俺の方が大好き。
 勇実のハジメテ、ちょうだい。
 俺のハジメテ、あげる」

 樹深くんのその、掠れた声を聞かされて、抑えがきかないのは私の方だと…霞む頭の中で思った。





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