〈改稿版〉traverse
159/171ページ
耳で囁かれるのが弱い私、樹深くんの腕の中で縮こまってうつむいた。
「…こっち向いて…」
樹深くんが熱っぽく言って、柔らかい唇を押し当てる。
何度も何度もついばまれて、私の唇が濡れていく。
リップ音がやたら響く気がして、恥ずかしい。
「…あ…樹…深くん…通るから、人…」
と口を開きかけた時、樹深くんの舌が私の舌に当たって、全身にビリッと電撃が走った感じがした。
唇が触れたままの至近距離、視線が絡んで、どうしようってくらい心臓が暴れた。
「…誰もいない…見てない…よ…」
樹深くんの舌が入ってくる。口の中で響く水音。
私の手を掴んでいた樹深くんの手は、スルッと私のうなじに差し込まれて、私はすっかり樹深くんに閉じ込められた。
「…んっ…た…つ…」
好き。樹深くん。好きだよ。
言っちゃダメなの? 元ちゃんの時は、ちゃんと言葉にしなって言ったクセに。
樹深くんにちゃんと伝わってる? 不安だよ。
「…っはぁ…」
樹深くんのキスが止んで、やっと私達の間に空間が出来た。
「…どうするの? 電車、乗れなかったじゃん…」
「…だって…樹深くんが引っ張るから…」
「あ、俺だけのせいにしてる。スイッチ押したのは…そっちでしょ…?」
さっきの自分の大胆な行動に、顔から火が出そう。
「まだ…いてくれるってことで…いいの…?」
「え…あ…ウン…一緒にいていいなら…いさせてよ…
カラオケでもネットカフェでも、付き合うよ。それで始発になったら、帰るから」
私の言葉に、樹深くんは目を丸くした。あれ、私、ヘンな事言った?
「…あーもう…なんかもう…イッサらしいよね…
……
……
…勇実? ひとつ、確認させて」
「えっ? うん…ナニ?」
樹深くんの瞳が迷いの色を見せるので、一体何を言おうとしてる? 自ずと私も不安の声を出してしまう。
樹深くんは、しばらく私を見つめた後、一度深く息をついて、言った。
「…勇実はさ。
俺といたら、思い出してしまわない?
…俺のこと、怖くない…?」
…