〈改稿版〉traverse

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 耳で囁かれるのが弱い私、樹深くんの腕の中で縮こまってうつむいた。

「…こっち向いて…」

 樹深くんが熱っぽく言って、柔らかい唇を押し当てる。

 何度も何度もついばまれて、私の唇が濡れていく。

 リップ音がやたら響く気がして、恥ずかしい。

「…あ…樹…深くん…通るから、人…」

と口を開きかけた時、樹深くんの舌が私の舌に当たって、全身にビリッと電撃が走った感じがした。

 唇が触れたままの至近距離、視線が絡んで、どうしようってくらい心臓が暴れた。

「…誰もいない…見てない…よ…」

 樹深くんの舌が入ってくる。口の中で響く水音。

 私の手を掴んでいた樹深くんの手は、スルッと私のうなじに差し込まれて、私はすっかり樹深くんに閉じ込められた。

「…んっ…た…つ…」

 好き。樹深くん。好きだよ。

 言っちゃダメなの? 元ちゃんの時は、ちゃんと言葉にしなって言ったクセに。

 樹深くんにちゃんと伝わってる? 不安だよ。

「…っはぁ…」

 樹深くんのキスが止んで、やっと私達の間に空間が出来た。

「…どうするの? 電車、乗れなかったじゃん…」

「…だって…樹深くんが引っ張るから…」

「あ、俺だけのせいにしてる。スイッチ押したのは…そっちでしょ…?」

 さっきの自分の大胆な行動に、顔から火が出そう。

「まだ…いてくれるってことで…いいの…?」

「え…あ…ウン…一緒にいていいなら…いさせてよ…
 カラオケでもネットカフェでも、付き合うよ。それで始発になったら、帰るから」

 私の言葉に、樹深くんは目を丸くした。あれ、私、ヘンな事言った?

「…あーもう…なんかもう…イッサらしいよね…
 ……
 ……
 …勇実? ひとつ、確認させて」

「えっ? うん…ナニ?」

 樹深くんの瞳が迷いの色を見せるので、一体何を言おうとしてる? 自ずと私も不安の声を出してしまう。

 樹深くんは、しばらく私を見つめた後、一度深く息をついて、言った。

「…勇実はさ。
 俺といたら、思い出してしまわない?
 …俺のこと、怖くない…?」





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