〈改稿版〉traverse
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私が乗る路線の終電にはまだ少しあったので、改札付近でボンヤリ壁に寄り掛かった。
この路線は、他に比べると少しローカル。乗降客も少な目で、改札には私達の他に誰もいなかった。
「あと…もう少し?」
「ん…もう少し」
お互い言葉少なで、電光掲示板をチラチラと見る。
デッキからずっと、手を繋いだままだった。
ひんやりと冷たい、樹深くんの手。
離さないと…私達は夢へと向かう道を歩けない。
【まもなく○番ホームに電車がまいります】
電光掲示板のお知らせ。
私達はゆっくりと…手を握る力を弱める。
「手紙書いてね」
「分かってる」
「電話もたまにしてね、声聞かせて」
「分かってる」
「風邪ひかないでね」
「分かってる」
「それから…それから…」
「イッサ、電車行っちゃう」
まだ、指先で繋いでいた。なかなか離せない。私も。樹深くんも。
「~~~っ」
たまらず、樹深くんの唇に一瞬でキスをした。
樹深くんが固まったのが分かった。
張り裂けるような思いで、指を離した。
──と同時に、樹深くんが、私が今離した手を掴んで、強く引き寄せた。もう片手で、私の肩を抱く。
タタン…タタン…
樹深くんの腕の中で、終電が行ってしまった音を聞いた。
「ばかイッサ。
…帰したくなくなったじゃん…」
樹深くんの掠れ声が、私のすぐ耳元で響いた。
…