〈改稿版〉traverse

157/171ページ

前へ 次へ


 私の通う専門学校がこの繁華駅の近くで、実家の最寄り駅から電車一本で行けた。

「終電の時間、確認しておきなよ」

 樹深くんに言われて、手帳に挟んである時刻表をさっと見た。23:26。今、19:41。

 あと4時間くらいしか、一緒にいられないんだ…

 私達は一度駅を出て、海に面しているショッピングモールに入った。

 しばらく日本食にありつけないから、という樹深くんのリクエストで、和食屋さんで夕飯を食べた。

 それから、寒いけど外のデッキに出て、テイクアウトのコーヒーを片手に、肩を寄せ合いながら色んな話をした。

 出逢った頃の事。そこからここまでの事。これからの事。

「マッサージの学校って、俺よく分かんないけど、何年で卒業出来るものなの?」

「うちの学校はね、二年制なの。私は後1年と少し…
 そしたらね、潤子さんの所で正式に雇ってもらうの。また、商店街の近くに住みたい」

「そっかぁ。その頃には…帰って来てるといいなぁ…」

「…ん…」

 せっかく…想いが通い合っても…

 明日から、少なくとも1年間は、こうしてふたりで逢ったり出来ないんだ…

 逢いたい時に、逢えないんだ…

 突然降って沸いた寂しさに、視界がゆらりと揺らされた。

「あっ、シーバス!」

 ごまかすように、ちょうど足下に走ってきた水上バスを指差す。

「もう少し来るのが早かったら、最終便に乗れたね。向こうの夜景の方とか、シーバスから見たら綺麗だろうね」

「ん…見よう? 帰ってきたら…必ず…」

 そう言って、樹深くんはコーヒーを持ってない方の手で、私の手を握った。

「手紙書いてね。私も書く」

「うん」

「電話はたまにでいいよ」

「うん。うん? なんでよ(笑)」

「だってお金かかるし」

「はは。俺はイッサの声聞きたいけど。じゃあ、たまにね。ガマンしてあげる」

「ナニソレ(笑) 私だってねー、樹深くんの声聞きたいけど。ガマンしてあげるんだから」

 テンポの心地いいこの会話も、もうすぐ終わるんだ。



 ショッピングモールの営業が終了して、私達はまた駅に戻ってきた。





157/171ページ
スキ