〈改稿版〉traverse
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チラッと樹深くんを見ると、真っ赤な顔して、不服そうに口を尖らせていた。
「ていうか…ねぇ…手ぇ下ろしてよ…」
また、樹深くんの手が伸びかけて…また、寸での所で止まる。
「え…ちょっ…なんなの、さっきから…っていうか、こないだから…その手は?」
さすがに怪しく思って、樹深くんを問い詰める。
「え? あー…
だって、イッサ、触られるの、イヤなんでしょ? やたらビクつくから…」
あ…いや…それは…
樹深くんに触れられたら、ドクドクうるさかったから…
でも…今なら…耐えられそう…
「別に…大丈夫だけど…?」
「あ…そう? じゃ…遠慮なく…」
樹深くんの手が再び伸びてきて…私の両手を耳から剥がした。
そしてそのままその高さで、優しく握られた。
樹深くんが近い。樹深くんの息がかかる。
「勇実」
イッサじゃない、勇実、だ。
「返事…ちょうだい? 」
樹深くんの掠れ声に、フタをしていた感情が一気に溢れ出した。
私。
私。
そうやって言われる前から。
「…私も…
…好き…だよぉ…
…うわぁん…!」
そんな風に泣きじゃくる私を見て、樹深くんはホッとしたように、そして、いとおしそうに、
「泣き虫」
そう言って笑った。
…