〈改稿版〉traverse

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 火曜日。

 きたいわ屋のもうひとつの勤務日。毎週火曜日は、ラーメンの特価サービスデーなので、いつもよりお客さんの入りが多い。

 そして金曜日と違って、お酒を飲まない学生とか若い人ばかり。

「勇実ぃ、醤油と塩、2番テーブルな」

「はぁい。お待ちどおさまです、醤油と、塩です」

 元ちゃんからどんぶりを受け取り、ひとつずつ運んでいく。

 金曜日の常連のおじさま達との和気あいあいな雰囲気はない。火曜日はとにかく注文取り、どんぶり運び、レジ、テーブル拭きと、忙しく繰り返す。元ちゃんとの漫才タイムもなし。

 私が上がる22時に近づくと、パッタリと客足が無くなる。これも火曜日の特徴。

「元ちゃん、今日のお夜食、味噌がいいな」

 カウンター席について、元ちゃんにおねだりしてみる。

「オマエなぁ。いっつも味噌味噌で、たまにはウチの看板メニュー食べようって気にならないワケ?」

 どっかのガキ大将みたいに口を尖らす元ちゃん、面白過ぎる。

「もやしたっぷりと、バターも忘れないでね」

「このやろ。聞いちゃいねぇし。ワガママ放題だなオイ。ほらよ」

 文句を垂れながらも、ちゃんとリクエスト通りのものをくれる元ちゃん、面白過ぎる。

「わー、今日もおいしそー。
 元ちゃん、天才ー。
 元ちゃん、ありがとー。
 スキー」

「ばっ。あほか! オマエは」

 冷たいビールを吹き出しそうになって、顔を真っ赤にする元ちゃん、面白過ぎる。

「かっかっか。元は勇実ちゃんに転がされっぱなしだなぁ。
 勇実ちゃんは、ほんとにそのタイプの味噌ラーメンが好きだねぇ」

 新聞を広げながら、大将が言った。

「うん。味噌といったら、やっぱりこれなの」

 ちょっとピリ辛のあっさり味噌スープのラーメン。もやしがたっぷり乗って、バターをスープに溶かしていくのが楽しい。

 小さい頃、おばあちゃんに会いに行く時、お父さんが必ず連れていってくれたラーメン屋があって、そこの味噌ラーメンがそういうので、すごく美味しかった。

 この商店街にあったお店だったけれど、今はもうない。私の、思い出の味。





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