〈改稿版〉traverse
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「え…え? 元ちゃん?」
???
元ちゃんの言ってる事がよく分からない。
元ちゃんは少々大げさな溜め息をついて、続けた。
「はあー…オマエらさぁ…
俺が何にも言わなかったら、どうするツモリだったワケ?
どーせあれだろ? またばったり逢うから、その時にって思ったんだろ?
そんな都合のいい…ずっと続くわけないじゃん」
元ちゃんの言葉が図星過ぎて、返す言葉もない。
「…先延ばしにすんなよ。後悔するぞ。
樹深くん、今日が最後の路上ライブって言ってたぞ」
私は息を飲んだ。
え。
うそ。
なんで?
「…ったくよー、アイツも俺経由で話通そうとしやがるのな。
…行けよ。もう上がれ」
突き付けられた現実、そして、元ちゃんの後押し。
「え…まだ全然働いて…開店もしてない…」
戸惑っていると、元ちゃんが奥から私の上着と荷物を持ってきて、カウンターにドサッと置いた。
「最後に味噌作ってやれなくて、ゴメンな」
じわっと…目頭が熱くなった。
目を伏せて、少し呼吸を整えた後、エプロンと三角巾を取っ払って、上着を着た。
「元ちゃんっ…ありがとう!
今までも…ありがとう!」
言い終わらない内に、私は駆け出した。
「あれっ? 勇実ちゃーん? どうしたの? 仕事は? たしか今日最後じゃなかったっけ?」
入口の所で常連のオジサマ達とすれ違う。軽く会釈をして、私はメイン通りに向かって走っていった。
元ちゃんが外に出てきて、オジサマ達に言ってくれるのを、背中で聞いた。
「ハイハイ、オジサマ方。勇実ちゃんは急用でーす。ジャマしないでやって」
…