〈改稿版〉traverse

146/171ページ

前へ 次へ


 きたいわ屋には、引っ越しが終わっても何回か、実家から働きに通っていた。

 今日が、最終日。

「勇実ぃ。こないだ、樹深くん来てたよ」

 樹深くんの名前が出て、ドキッとする。

「へ、え。そうなんだ。前にばったり逢った時に、元ちゃんが来てって言ってたって、言っといたんだよ」

「オマエがもう実家に戻ってて、ここにももうすぐ来なくなるって言ったら、すげー驚いてたぞ。
 何にも、話してなかったんだ?」

「…うん」

「今日が最終日だって事も、話しちゃったからな?
 オマエから聞きたかっただろうに…ナニやってんだよ、オマエは」

「……」

 樹深くん。最後に顔見て話せたらよかった? でも、きっと、うまく伝えられない。私、おかしいもん。

 テーブルを拭く手を止めてボンヤリしていると、元ちゃんが首筋に手を宛がいながら言った。





「オマエ…つーか…オマエら…
 じれったい」





146/171ページ
スキ