〈改稿版〉traverse
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自分の気持ちをごまかし続けて…さらに十数日が過ぎた。
その間に、学校が冬休みに入り、実家への引っ越しを済ませた。
もう、おばあちゃんの家はおばあちゃんの家でなくなった。近々家屋は取り壊されて、土地が売りに出される事になっている。
実家に戻ったからには、もう、商店街を拠点にする理由がない。
潤子さんには、学校での勉強を集中して頑張って、必ず卒業するから、その時にまたここで雇って下さいと頼んだ。
潤子さんは目を潤ませて、何度も頷いて、いつまでも待ってるよと言ってくれた。
典ちゃんはずっと泣いていた。もうここでは一緒に働けなくなるけど、連絡はずっと取り合っていこうねと約束した。
樹深くんにばったり逢うのが怖かったけど、喫茶KOUJIにも最後の挨拶に行った。朝じゃなくお昼に。
「そうかぁ…勇実ちゃんにもうモーニング出せないんだね。そうだ、餞別代わりにランチ食べてってよ」
そう言うとマスターは、本日のランチの大盛りナポリタン、それからいつものホットコーヒーをご馳走してくれた。
月曜のモーニングと違って賑やかなランチタイム。私の定位置だった窓際の席は、若いママ達の集まりで話が弾んでいるようだった。
「彼も、最近来てないんだよネ。何か知ってる?」
そうなんだ。樹深くん、来てないんだ。
「ううん。分かんない。忙しいんじゃないかな。もし来たら、私の事言っておいてくれる?」
ズルいって分かってる。でも、顔を合わせたら、きっと何も言えない。
…