〈改稿版〉traverse

141/171ページ

前へ 次へ


「久しぶりだねぇ、この構図(笑)」

 マスターが私達にモーニングプレートを差し出して、コーヒーを淹れにまた奥へ引っ込んでいった。

「フフ、ほんとに。いつ以来? もう…ひと月以上前だよねぇ」

「う、ん。そうだよね。あの、樹深くん。あのさぁ」

 樹深くんに、お礼。

「イッサ、金曜、聴いてくれてありがと。途中で行っちゃったけど(笑)」

「え? あ、うん。ごめん。ちゃんと聴いてたよ。
 それで、あのさぁ」

 早く言いたいのに。

「最近、どうしてた?
 俺ね、日曜の夜も歌ってるの。織田桐さんとこにも、しょっちゅう話しに行って…そうそう、さっきもね、会いに行ってた。
 イッサに逢ってない間、いっぱい場数踏んでね、色んな事を見て…」

 どんどん言葉を被せてくる、樹深くん。

「あの、だから…
 …もうっ!
 樹深くん! 自分ばっかりで、私の話を聞いて?
 私、もう大丈夫だよ。元気だよ。
 みんなみんな、樹深くんのおかげ。ありがとう。
 って、なんで、言わせてくれないかなぁ」

 思わず樹深くんに苛立ちをぶつける。樹深くん、目を丸くして私を見た。

「…ごめん」

 ションボリしてボソッと呟く。やだもう、面白い。

「分かれば、よろしい(笑)」

「…くくっ。あ~、やっと、この空気に戻ったなぁ(笑)」

 うん。いつもの私達。さっきの心臓のドクドクはもう消えていた。

 お礼をなかなか言えなかったから、そうだったんだろう。





141/171ページ
スキ