〈改稿版〉traverse

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 気づけばもう、本格的な冬に差し掛かっていた。

 カラカラン♪

 久しぶりに【喫茶KOUJI】の扉を開ける。

「勇実ちゃん! いらっしゃい。やっと来たね」

 マスターが顔を綻ばせながら私に駆け寄ってきた。

「へへ…お久しぶりです」

「お父さんから話は聞いたよ…ここまで、頑張ったネ」

「うん…もう、大丈夫だよ。これからまた、お世話になります」

「ウン、ウン。さ、勇実ちゃんおかえりモーニング作るから、ちょっと待っててネ」

 そう言ってマスターは、カウンターの奥へ戻っていった。

 入ってすぐの所で、ぐるりと店内を見回す。マスターのコーヒーの香りが漂う、やっぱりここが好き。

 樹深くんは…いない。

「樹深くん、まだ来てないの?」

「ウン。最近はね、遅く来るよ。なんかやる事あるんだって」

「へぇ…」

 樹深くんとずっと話していない。あの夜を除いて、まともに会話したのは…もうひと月以上前。

 早く、ありがとうって言いたい。

 ドクドク。あれ…何故か、心臓が速く脈打つ。

 カラカラン♪

 私のすぐ後ろで、扉が勢いよく開いた。

 ビックリして振り向くと、樹深くんが入ってくるところだった。

「あーっ、イッサ。来れたんだね。おはよ」

「え、あ、うん、おはよ」

 樹深くんと目を合わせて言葉を発するの、すごく久しぶり。

 ドクドクドク。

「なんで、こんな所で突っ立ってるの? 座んないの?」

「え、あー、うん。そーですね…」

「えー? イッサ、どーした? ヘンなの。ほら、早くそっち行って」

「……」

 ケラケラ笑いながら、私の背中を樹深くんが両手で押す。

 やだ、なんか、熱い。

「おはようございまーす。モーニング、俺にもお願いします」

 そう言いながら、樹深くんは私の肩に手を置いて、カウンター席に座らせた。

 ドクドクドクドク。

 …あれ。

 …あれ。

 …あれ。

 どうしたんだろう、私。

 樹深くんと…うまく話せない。





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