〈改稿版〉traverse

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(次、聴いて)

 そんな風に読み取れた、樹深くんの口パク。

 自転車に跨がったままこくりと頷くと、樹深くんの視線が外れた。

「えー…最後になりますが、一曲、短いんですけど新しい曲、聴いて下さい。
 曲名は…【名前】」

 パチパチと拍手が飛び、しんとなったところで、樹深くんが歌い始めた。



 ♪この世の生を受けたあなたに
 ♪一番最初のお守りをあげましょう

 ♪沢山沢山考えました
 ♪沢山沢山祈りました
 ♪どうか一生あなたを
 ♪守ってくれますように

 ♪ふとした時に思い出してみて
 ♪いつだか話した
 ♪そのお守りの意味を

 ♪あなたの力になれたらいいな
 ♪あなたにずっと寄り添えたらいいな

 ♪いつも空から見守っています…



 まだ…続いているみたいだったけれど…私は人だかりからそっと離れた。

 カッシャン、カッシャン、カッシャン…キィッ。

 樹深くんの声とギターの音が微かに聞こえる所で、私は自転車を止めた。

「…うう…っ」

 涙が落ちる。ボタボタボタ。拭っても拭っても出てくる。追いつかない。

 おばあちゃん、見ててね。私、がんばるから。

 泣くのはもうおしまいにするから、今だけ、涙止めなくていいかなぁ。

 樹深くんの歌は

 樹深くんの声は

 …やっぱりズルいや。





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