〈改稿版〉traverse

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 樹深くんが傍にいてくれたのは、これっきりで…そこからまた、二週間以上が過ぎた。

 私は少しずつ、元気を取り戻していった。

 まずは勉強だけを、集中して頑張った。おばあちゃんが空から見てくれてるって思ったら、それが不思議と力になったから。

 潤子さんのマッサージ屋も、きたいわ屋も、喫茶KOUJIも、そして樹深くんの路上も、自分がもう大丈夫って胸を張れるまで、意図的に足を止めていた。



 もう、ダイジョウブ。



 そう思えたのは、金曜日だった。

 きたいわ屋に顔を出す。元ちゃんも大将も、私の顔を見てホッとしていた。前回ときたら、どうしようってくらい酷い顔をしていたと、この時に聞いた。

「勇実ぃ、おかえり」

 元ちゃんが私の頭をくしゃりと撫でた。



 いつもの22時に仕事を上がる。自転車にも危なげなく乗れるようになった。カッシャン、カッシャン、とペダルを漕ぐ。

 久しぶりの例の場所、人だかりが出来ていた。

 樹深くんの歌声が響いているけれど、姿が全く見えない。

 人だかりから一歩引いた所で自転車を止めて、そこから、立ち塞がる人影の隙間を見る。

 …いた。樹深くん。元気そう。

 一曲終わって、「ありがとうございました」という声が飛ぶと、わっと拍手が沸いた。

 樹深くん、どんどん凄くなっていく。

 次の月曜、喫茶KOUJIに行こう。それで、ちゃんと話そう。元気になったよって、樹深くんのおかげだよって、伝えよう。

 そう思いながらペダルに足を掛けた時、人だかりの隙間を縫って…樹深くんと目が合った。





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