〈改稿版〉traverse

136/171ページ

前へ 次へ


 窓からの明るみで目が覚めた。

 いつの間にか、布団の中で眠っていた。

「あ…? 樹深くん…?」

 この布団は、樹深くんが寝室から運んできてくれたに違いなかった。

 私はいつまで、樹深くんにもたれ掛かっていたんだろう。

 樹深くんが包んでくれていた手を、そっと握りしめた。

 感触を…まだ覚えている。

「樹深くん」

 返事はない。

 ダイニングテーブルに、昨夜は無かったレジ袋が置かれているのを見つけた。

 その横に、メモが置かれていた。

 この紙、見た事ある。樹深くんが歌詞を書き留めておくのに使っている、ノートの切れっ端。



 よく眠ってたね。

 これから仕事があるので、いつものモーニング食べてから行きます。

 ごはん、適当に買ってきた。食べられそうなら食べて。

 ゆっくり、元気になりな。



 袋の中には、おにぎりやサンドイッチ、ドリンクが入っていた。

 まだ…喫茶KOUJIには顔を出せそうにない。

 私は、樹深くんの気遣いを有り難く頂戴した。

 昨日は…日曜日だったんだな…

 樹深くん、日曜日も歌う事にしたんだろうか。

 そんな事を考えながら…樹深くんが買ってくれたおにぎりを、少しずつかじった。





136/171ページ
スキ