〈改稿版〉traverse

13/171ページ

前へ 次へ


 月曜日。

 この曜日に専門学校の講義をひとつも入れていない私。きたいわ屋も潤子さんの所も、お休みにさせて貰っている。

 よって、平日であるはずの月曜日は、私にとっては週末という事になる。



 カラカラン♪

 月曜の朝は決まって、喫茶KOUJIのモーニングを頂く。

 入口のすぐそばの窓際、私の指定席。

「いらっしゃい、勇実ちゃん」

 喫茶KOUJIのマスターは、私のお父さんの友人で、この町に暮らし始めた時からお世話になりっぱなし。多分、お父さんからも頼まれているんだろう。

「おはようございまぁす。今日のモーニング、何ですか?」

「今日はねぇ、どうするかなぁ?
 厚切りのピザトーストに、トロットロのスクランブルエッグでいかがかな?」

 マスターはいつも、私の顔を見てからモーニングの内容を決める。

「わあっ、じゃ、それで!」

「ふふ。では出来るまで、こちらをどうぞ」

 そう言ってマスターは、淹れたてのホットコーヒーをテーブルに優しく置いた。

 あーいい香り。コーヒーの香りって、なんでこんなに落ち着くんだろう。

 香りをたっぷり堪能してから、私は砂糖とミルクをひとつずつ入れて、ちょっぴりずつ飲んだ。

「すみません、モーニングひとつ、お願いします」

「はいよ。ちょいと待っててネ。今、パパッと作っちゃうから」

 ん? お客さんいたんだ。

 いつも私ひとりだから、マスター以外に誰かいるなんて、不思議な感じ。

 それに、今の声、聞いた事あるような?

 声の方へ顔を向けると、カウンター席に座る後ろ姿を捉えた。

 あれ?

 黒いチューリップハット。

 長い襟足の黒髪。

 あれ?





13/171ページ
スキ