〈改稿版〉traverse

128/171ページ

前へ 次へ


 瞬く間に日々が過ぎた。

 おばあちゃんが亡くなって3日後に、家族葬で、親戚のみで通夜、告別式、火葬を執り行う事になった。

 元ちゃんには、家族葬なので香典弔電諸々辞退したい旨を知らせた。

 お母さんを亡くしている元ちゃんは、私が多くを語らなくても分かっているようだった。

 落ち着くまでは無理に連絡しなくていいから、体だけには気をつけろよ、と言ってくれた。

 葬儀屋さんとの打ち合わせの合間に、おばあちゃんの体を置かせて貰っている斎場の安置室に足を運ぶ。

 おばあちゃん、お水ほしい?

 水を含ませた脱脂綿をピンセットで摘まんで、おばあちゃんの口にポンポンと押した。

 ここだけ、時間が止まっているみたいだ…周りはとてもせわしく動いているのに。

 静か過ぎて、耳が痛い。お線香の匂いが、やたら落ち着く。

 通夜が始まる前日まで、時間が取れればそうしていた。



 通夜の日、親戚一同が集まって、通夜の後おばあちゃんを忍んで通夜振る舞いをした。

 そして翌日の告別式、火葬と事が進んで…

 おばあちゃんの骨を拾って骨壺に納めた時も、不思議と涙が出ず…おばあちゃんが亡くなってから、一度も涙が出ていない。

 通夜振る舞いの食事も、火葬の後の軽食も、喉を通らなかった。

 おばあちゃんの魂が消えて、体も消滅して、私の心も空っぽになったようなのに、涙は出てこなかった。



 そして、やらなければならない様々な所用をこなして…自分の宣言通り、2週間が経った頃、いつもの生活に戻った。

 というよりは…いつもの生活に無理矢理戻らないと、自分がどうにかなってしまいそうだった。

 おばあちゃんが施設から帰ってきて、施設に一緒に戻って一泊して、朝に家にひとり帰った後の、どうしようもない寂しさ。

 あれがずっと続いていて…辛かった。





128/171ページ
スキ