〈改稿版〉traverse
125/171ページ
ヘルメットを借りて、元ちゃんのバイクに乗せて貰う。
元ちゃんの背中にしがみつきながら、自分の恐ろしくイヤな音の心臓を確かめていた。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
「勇実? まだ、真っ直ぐ?」
元ちゃんの声が風に乗って届いて、ハッとなった。
「えっ、あっ、次の信号を、左っ…」
「勇実? 大丈夫だからな、しっかり…まずは、ちゃんと掴まってろよ…」
いけない。しっかりしなきゃ。
おばあちゃん。こないだの土曜日、家に帰って来れなかった。少し咳が出るからって。
日曜日に施設に顔を出したら、おばあちゃんはニコニコしながら、
「昨日は帰れなくてごめんね、楽しみが来週に延びたね」
と言った。
この時も少し咳をしていて、でも、来週には治まってるよと。私もそうだろうと思った。
「勇実? あれか?」
商店街から約15分。施設の白い建屋が見えてきた。
バイクを敷地内の駐輪場に停めて、元ちゃんと一緒に中へ…正面玄関はもう締まっているから、インターホンを押して、職員玄関から入れて貰った。
スタッフさんがバタバタと出迎えてくれて、おばあちゃんの部屋へ案内された。
部屋の前に、私のお父さんとお母さんがいた。お互い見るなり、駆け寄り合った。
「すみません、ここからは、ご家族の方以外は…」
元ちゃんがスタッフさんに言われているのを聞いて、私はハッと振り返った。
元ちゃんは、もう向こうへ歩き出していた。
「元ちゃん! ごめんね。ここまで、ありがとう」
「勇実? お父さんとお母さんも来てくれて…ひとまず安心だな?
店の事は気にするなよ。潤子さんとこにも、話しておくから…
なんかあったら…なんでもなくても…
言えよ? 頼ってくれよな」
そう言って、元ちゃんは帰っていった。
元ちゃんには…感謝してもしきれない。
私はお父さんとお母さんと一緒に、おばあちゃんのいる部屋に入り…
そこで、夜を明かした。
…