〈改稿版〉traverse
114/171ページ
一旦落ち着いたところで、元ちゃんが私と樹深くんに味噌ラーメンを出した。
「わぁい、元ちゃんありがとー」
「俺にも? いいんですか?」
喜ぶ私と、戸惑う樹深くん。
「おごるって言ったろ。食え食え。
実はさぁ、表に出そうかなって思ってんのよ、ソレ」
「えっ? 聞いてない!」
「今初めて言ったもん。
勇実にしかウケねぇって思ってたけど、樹深くんも、美味いって言ってくれたじゃん?
まぁ、まずは期間限定でやってみようかなってね」
「えーっ! じゃあ、もう、私には味噌くれないって事!?」
「ぎゃはは。さーて、どーすっかなぁ。次からはお代を頂こうかな」
「ヒドイ! 元ちゃんの味噌ファン第一号なのにー! その仕打ちはナニよー!」
元ちゃんの肩をガタガタと揺らすも、元ちゃんはニシシと笑うだけ。
樹深くんも、私達のやりとりを見て、クスクス笑いながら味噌ラーメンをすすった。
食べ終わって、樹深くんがまたオジサマ達にせがまれて歌いに席を立った時、元ちゃんが私をじっと見ているのに気付いた。
「元ちゃん? なに?」
首を傾げて聞くと、
「オマエは…やっぱ、そうでなくっちゃな」
目を伏せて、優しく微笑みながら、元ちゃんは言った。
私は…元ちゃんと恋愛できて、本当によかったと思った。
夏の熱がもう、すっかり取れた頃だった。
…