〈改稿版〉traverse
112/171ページ
それから…幾日か過ぎて、私と、元ちゃんと、樹深くんは、少しずつ元の関係に戻っていった。
私と元ちゃんは、そもそも付き合う前と後では、さほど変わらない雰囲気だったみたいで、お付き合いを止めた事に関して大将や常連のオジサマ達は、
「えっ? そうだったの? でも、全然雰囲気変わらないよね。言わなきゃ、分からないままだったよ」
なんて言うので…私と元ちゃんは思わず顔を見合わせて…苦笑いをした。
お互いに…元の関係にすぐに戻れるように…気遣っていたと思う。
その甲斐あって、ギクシャクする事もなく、別れを告げてから浅い日数で、いつものように笑い合えるようになっていた。
一方…樹深くんの方は。
実はあの夜から…私は例の場所を避けてきたいわ屋を行き来していた。
でも、元ちゃんとのお別れのおかげと言っていいのかどうか、サナダとの事が私の中でだいぶ薄れたので…
また、樹深くんの路上ライブの前を通れるようになった。
樹深くんの歌を聴きに来た人達の目があるから、自転車から降りてそばに行く事はできないけれど。
樹深くんと目が合うと、樹深くんはふっと笑って、歌を続ける。
私はしばらく聴いていって、一曲終わると、自転車を漕ぎ出した。
月曜日の喫茶KOUJIではまた、カウンター席で隣同士で座って、くだらない事を言い合っては、マスターに「ウンウン、やっとこの空気が戻ってきたネ」と安心させていた。
とある金曜日。
私の上がりの時間になる頃、元ちゃんがこう言ってきた。
「勇実ぃ。オマエと樹深くんさぁ、アレの打ち上げ、まだやってないんじゃねぇの?
今、ここに樹深くん呼んでさ、皆で盛り上がろーぜ」
…