〈改稿版〉traverse
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「え…あ…どうして、ここに…どうしたの…?」
元ちゃんは、私が毎週ここで朝ごはんを食べる事を知っていたけれど、こうやって来るなんて事は絶対になかった。
この時間帯はまだ寝てるからというのと…樹深くんがいるからっていうのと…
「勇実…」
元ちゃんは私の顔をじっと見つめて、ばっと頭を下げて言った。
「勇実、ごめんっ…俺…オマエにひどい事を…
あのな…聞いたんだよ…オマエの友達の典ちゃんに…
…全部…」
え…典ちゃんに?
話を聞くと、昨日、開店前の仕込みの時に典ちゃんが来て、泣きながら私の話をしたという。
全部自分のせいだから、勇実ちゃんを責めないでくれと。
「全部…? 全部…聞いちゃったの…?」
「…うん…」
「…ゴメン…なさい…」
「…なんで謝るんだよ…オマエのせいじゃねぇだろうよ…」
元ちゃんが私の肩に手を添えた時、ビクンと体が大きく震えた。それを見て元ちゃんは、キツそうに顔を歪めた。
「勇実、ちょっとこっち…入口塞いでたら迷惑になる」
元ちゃんにそっと押されて、喫茶KOUJIの裏口に繋がる路地に少し入った。
心臓が…こんな明るい時間でも…ざわつく。
思わず俯くと、元ちゃんが私の指を軽く握ってきた。
あ…なぜ…手ごと包まないんだろう…
「勇実…? 俺は…オマエの事すげぇ好きで…
ずっと…触れていたい…
…でも…オマエは…コワイ…んだよな…? 俺が…そういうのをオマエにぶつける度…ツラいんだよな…?
そんなオマエを見るの…ツラいし…でも…自分の気持ちを抑える自信もねぇし…
…そんならさ…」
元ちゃんが一生懸命に紡ぐ言葉に、ギュッと目をつぶった。
元ちゃん、ナニを言おうとしてる?
「俺達…やめよう…?
元の…付き合う前の俺達に…戻ろう」
涙がボロッと落ちて、私は顔を上げた。
元ちゃんも…泣いてた。
…