〈改稿版〉traverse

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 右手で痕を覆う、そんな事をしても無駄なのに。

 あれだけ引っ掻いた私の爪痕は消えたのに、これだけ、まだ消えない。

 元ちゃんが私の右手首をそっと握った。無理に剥がそうとはしなかったけれど、元ちゃんの手が震えているのが分かって、私の心臓がギュウッと鷲掴みにされた。

「勇実…? なんかあった…?
 でなきゃ…こんなとこ…」

 元ちゃんの目を見れない。

 言わなきゃ。元ちゃんに真相を、言わなきゃ。

 でも。

 言葉が出ないよ。

 口がパクパクするだけだよ。

 あの夜の出来事が、私の声を奪う…ボロボロと…涙が伝う…

 ただ泣くだけの私に、元ちゃんは溜め息をついて…ボソリと言った。

「…ダレだよ…こん…な…
 …勇実…
 ……
 ……
 …そりゃないだろ…」

 元ちゃんの絶望したような声に、私は絶望した…

 気付いた時には、私は元ちゃんの手を振り払って、路地を飛び出していた。

 元ちゃんも…追いかけてこなかった…





 …もう、元ちゃんのそばにいるのを許されないかもしれない。





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