〈改稿版〉traverse
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(★)
そしてまた、金曜日が来た。あの夜から、もう一週間が経った。
昨日の事で気不味かった私と元ちゃんだったけれど、きたいわ屋の常連さん達のいつもの雰囲気に助けられた。
「勇実? 今日は味噌、いけそうか?」
「うん、大丈夫大丈夫。あー久しぶり。早く食べたい」
食欲はもう元に戻っていた。久々の味噌に心が踊る。
「ヒューッ、相変わらずアマイねぇ」
オジサマ達が囃し立てる。元ちゃんも、私の様子にホッとしたようだった。
夜食をたいらげてらきたいわ屋を出る。元ちゃんも一緒に出る。
「ヒューッ、お見送り、ご苦労様ぁ」
オジサマ達は、元ちゃんが私をメイン通りまで送っていくと思っている。
元ちゃんが後ろ手で引き戸を閉めると、お店の喧騒がフェードアウトして、辺りがしんとなった。
なんとなく、そのままふたりで見つめあう…
「勇実…いい…?」
「……」
こくりと頷いた。もうずっと、元ちゃんに我慢させてる…
元ちゃんが裏口の路地へ手を引いた。
心臓が…ドクドクとイヤな音をたて始める…
(大丈夫…大丈夫…元ちゃんだから…大丈夫…)
必死に、言い聞かせる。
元ちゃんが私の頭を撫でた。ホッとする。
うなじからスルッと手を差し込まれて、唇を塞がれた。元ちゃんの柔らかい唇…
キスをしながら、元ちゃんの手が私の胸に降りてくる。シャツのボタンを、上からゆっくり外していく。
(大…丈夫…元ちゃんとサナダは…違う…)
目を閉じて、何度もそう唱えながら、元ちゃんの唇と手の感触を受け止めていた…
「…なんだ…? …コレ…」
(…えっ?)
元ちゃんの体温が一瞬で遠ざかった。
「勇実…? ナニ? コレ…
どうやったら、こんなトコに…こんなのが…」
私の背中に、冷たい汗が流れた。
隠していたはずなのに…暑さで蒸れたのか、絆創膏が剥がれて…
イヤな赤い痕が晒されていた。
…