〈改稿版〉traverse

106/171ページ

前へ 次へ

 (★)

 そしてまた、金曜日が来た。あの夜から、もう一週間が経った。

 昨日の事で気不味かった私と元ちゃんだったけれど、きたいわ屋の常連さん達のいつもの雰囲気に助けられた。

「勇実? 今日は味噌、いけそうか?」

「うん、大丈夫大丈夫。あー久しぶり。早く食べたい」

 食欲はもう元に戻っていた。久々の味噌に心が踊る。

「ヒューッ、相変わらずアマイねぇ」

 オジサマ達が囃し立てる。元ちゃんも、私の様子にホッとしたようだった。

 夜食をたいらげてらきたいわ屋を出る。元ちゃんも一緒に出る。

「ヒューッ、お見送り、ご苦労様ぁ」

 オジサマ達は、元ちゃんが私をメイン通りまで送っていくと思っている。

 元ちゃんが後ろ手で引き戸を閉めると、お店の喧騒がフェードアウトして、辺りがしんとなった。

 なんとなく、そのままふたりで見つめあう…

「勇実…いい…?」

「……」

 こくりと頷いた。もうずっと、元ちゃんに我慢させてる…

 元ちゃんが裏口の路地へ手を引いた。

 心臓が…ドクドクとイヤな音をたて始める…

(大丈夫…大丈夫…元ちゃんだから…大丈夫…)

 必死に、言い聞かせる。

 元ちゃんが私の頭を撫でた。ホッとする。

 うなじからスルッと手を差し込まれて、唇を塞がれた。元ちゃんの柔らかい唇…

 キスをしながら、元ちゃんの手が私の胸に降りてくる。シャツのボタンを、上からゆっくり外していく。

(大…丈夫…元ちゃんとサナダは…違う…)

 目を閉じて、何度もそう唱えながら、元ちゃんの唇と手の感触を受け止めていた…

「…なんだ…? …コレ…」

(…えっ?)

 元ちゃんの体温が一瞬で遠ざかった。

「勇実…? ナニ? コレ…
 どうやったら、こんなトコに…こんなのが…」

 私の背中に、冷たい汗が流れた。

 隠していたはずなのに…暑さで蒸れたのか、絆創膏が剥がれて…

 イヤな赤い痕が晒されていた。





106/171ページ
スキ