〈改稿版〉traverse
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樹深くんの顔を見てひゅっと息を飲む、樹深くんの左の頬に、大きなガーゼが貼られていた。
樹深くんは私を見て、ホッとした顔をした。
「…今日は逢えないかと思った…」
「あ…あの…樹深く…」
「声も出せるね? よかった…」
はあぁ、と安堵の溜め息をつく樹深くん。
「…モーニング、食べれる…?」
「…うん…大丈夫、と思う…」
「…そっか。俺、もう食べたから。行くね」
待って。樹深くん。お礼を言わせて。そんな大きなケガさせてごめんねって言わせて。どうして、そう次から次へ言葉を被せてくるの?
そんな思いは届かず、
「LINEを…後で送るから。
…待ってて」
そう言って、樹深くんは駅の方へ去っていった。
樹深くんの背中がどんどん小さくなっていくのをボンヤリ眺めて…喫茶KOUJIの扉を開けた。
「勇実ちゃん! よかった、もう来ないのかと思ったよ。どうした? 具合悪い? 少し顔色がよくないね」
マスターがカウンターから飛ぶように出てきた。
「あ、うん…夏バテかも…ちょっとダルくて」
「そうかそうか。じゃあ今日はアッサリしたのを作るからネ。
彼、ずいぶん長いこと勇実ちゃん待ってたよ。ついさっき帰ったばかりだけど…すれ違っちゃったネ」
今そこで逢ってた、とはマスターには言わなかった。
黙って、窓際の席に腰を下ろした。
外の人の往き来を、視点の定まらない目で眺めていると、ブー、ブー、と私のスマホが震えた。
LINE通知。樹深くんから。
私は画面を開いて、樹深くんのLINEに目を通した。
…