〈改稿版〉traverse

101/171ページ

前へ 次へ


 ──それから、どうやって過ごしてきたんだろう…?

 土曜日、いつも通りにマッサージの仕事をこなした。典ちゃんに、水曜日以来サナダの影を感じなくなったと聞かされた。

 潤子さんにも事情を話していたので、次に来店した時の対策を念入りに練っていたらしいけれど、サナダが来ないので肩透かしみたい。

「勇実ちゃん? なんだか、顔色が悪いよ…? 大丈夫…?」

「えっ? う、うん、平気平気、夏バテかなぁ、あははぁ」

 正直に言うと、サナダの名前を聞いただけで吐き気がした。でもそんな事、誰にも言えない。あんな事があったなんて、言えない。



 おばあちゃんが帰ってきた時も、悟られないよう元気に振る舞った。

 でもおばあちゃんは、私をギュッと抱きしめた。何も聞かないけれど、無理だけはしないように、それだけ言われた。



 土曜日、日曜日と、元ちゃんの所に顔を出しに行けなかった。

 ただLINEだけ、夏バテみたいでちょっと調子が悪いから、火曜日の勤務まで会いに行けそうにないと伝えた。

 元ちゃんは、無理すんなよ、と送ってきた。寂しさが文面から伝わった。



 樹深くんに…連絡を取るのが恐かった。

 あれからどうなったんだろう、樹深くんの安否が気になったけれど、とてもじゃないけど自分から連絡出来なかった。

 樹深くんからも…連絡はなかった。



 ひとりで家にいる時、サナダにつけられた、鎖骨下の赤い痕が視界に入って、どうしようもなく悔しくて、ガリガリと引っ掻いた。

 こんなことで消えるワケがない。絆創膏を貼って、夏で暑いのに、シャツのボタンも上まで留めた。



 月曜日が来た。

 喫茶KOUJIに行くのを…ためらった。カチコチカチコチ、いつもの時間に近づく。体が重たい。

 …樹深くんに…ちゃんと顔見てお礼を言わなきゃ…

 わずかな気力をふりしぼって、喫茶KOUJIに向かった。

 カラカラン♪

 私が入る前に、お店の扉が開いた。

 出てきたのは、樹深くんだった。





101/171ページ
スキ