traverse

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「ウソ…ホントに!?」

 ガシャンと自転車から降りる音と、私の驚きの声が、通りに響き渡る。

「うん」

「わーっ! スゴイ! やだもう、タツミくん、スゴイじゃん!」

「へへ、うん」

 タツミくんが照れ笑いをする。

 私が両手を顔の前にかざしてタッチを求めると、タツミくんはパチンと音を立たせて、そのまま手を重ねた。

「やった! やった! やった!」

「うん」

「えーっ、どうなっちゃうの、タツミくん? このままデビューしちゃうの?」

「まさか。そんなウマイ話になるワケないでしょ。
 でも…ひとつの可能性は出てきたと思う。
 俺、頑張りたい。もっともっと、歌いたい」

「うん! うん! タツミー、がんばれー」

「…うん」

「うん?」

「……」

 タツミくんの視線が、重ねられた手から動かない。

 重ねられた手の指が、いつの間にか絡み合って…お互いを離さないでいた。

 タツミくんの、体温。

 妙な沈黙が流れる。

「あ…と…マズい?」

 耐えかねてタツミくんに聞くと、

「いや…いいんじゃない?
 ありがと、一緒に喜んでくれて。
 ハイ、この話はもうおしまい」

 そう言って、タツミくんの手がスルリと抜けた。

 まただ。

 また、寂しいよ。

 この寂しさは、アレとおんなじだ。野球を観に行った時の、スタスタと先に歩いていくタツミくんを追いかけた時に抱いた気持ちとおんなじ。

 あの時も、今も、この寂しさの正体が分からない。そして、タツミくんの気持ちも。

 あの時は、ハジメちゃんに遠慮して距離を開けていたタツミくん。でも、今は? タツミくんは今、何に遠慮しているのだろう。

 ごちゃごちゃ考えていたら、パタンとギターケースの閉まる音がして、それで私はハッとなった。

「もう…人、来ないみたいだから。これで帰るね」

「う、ん。分かった。じゃ、またね」

 自転車に跨がって、漕ぎ出そうとしたら、

「イッサ? 俺、頑張るから。見てて。
 また…聴いてって」

 背後からそうタツミくんの声が飛んで、振り返った時にはもう、タツミくんは向こうへ歩き出していた。



 最初の頃、プロを目指してやっているわけではないと言っていた、タツミくん。

 今、夢を掴めそうになっている状況に…このままトントン拍子でタツミくんが先に行ってしまうであろう事に…

 嬉しいと思うと同時に、情けないけれど、私は寂しさを感じてしまっているんだ。



 そう結論付けた。





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