traverse
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私のすぐ横で、タツミくんがお二人を見つめながら、じっと考え込んでいた。
「即興でも、いいですか?」
この言葉を聞いて、私は自然と顔を綻ばせた。
こう言った時のタツミくんは、必ず素晴らしい歌を作るのを、私は知っているから。
「かまわないよ(笑)」
カンダさんとオダギリさんも、優しい笑顔でタツミくんを見守る。
♪ガキの頃から 仲がいい
♪並んで竹馬、は 古いけど
♪並んで自転車 並んでバイク
♪並んでギター 並んでたまには勉強(笑)
♪大人になって 並んで酒も 飲めるようになった
♪大人になって 逢う時間が減っても 変わらない
♪逢わない時間の方が 多くなったって
♪逢っちまえばさぁ 全然関係ないんだよ
♪だってオマエ いつだって
♪あの頃のままの オマエなんだもん
♪しわくちゃじいちゃんに なったって
♪オレの前にいるオマエは あの頃のままのオマエ
♪いつまでこうして いられるかな…?
♪んなコト考えてるヒマがあったら
♪オレの酒に付き合えよ!
♪しわくちゃじいちゃんになっても 付き合えよ…
♪約束な…
タツミくんは後に、この時の歌を【竹馬の友】と名付けた。
「…お粗末さまでした。
すみません、お二人を見てたら…こんなんだったのかなって、勝手に想像しちゃいました」
歌い終わり、黒いチューリップハットを取って、深々とお辞儀をするタツミくん。
自分達の事を歌われていると気付いて、カンダさんとオダギリさんは顔を見合わせて、くっくっくっと笑いを堪えきれないように身をよじった。
「ふふふっ…いいね。ありがとう。僕らには勿体ない気もするけれど(笑)」
「いや! 意外にイイ線いってたぞ!(笑)」というカンダさんの茶々入れを無視して、
「タツミくん、っていったね。これ、よかったら持ってて。今度、ゆっくり話をしよう」
オダギリさんはお財布の中から1枚カードを抜き取って、それをタツミくんに渡すと、駅の方へ歩いていった。
「おいオダっち? 置いてくなよー(笑)
じゃあな、またいつか聴きに来るからな。頑張れよ。そっちのおねーちゃんも、仲良くな(笑)」
最後まで勘違いしたままのカンダさんも、オダギリさんを追いかけて行ってしまった。
「ねぇ…何を貰ったの?」
タツミくんの手の中の、渡されたカードを覗いてみる。
「…名刺」
ボソリと呟いて、タツミくんは黙り込んだまま、名刺に視線を落としていた。
オダギリさんの姓名。連絡先。
そして…レコード会社の名前が書かれていた。
…