traverse

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 それから…幾日か過ぎて、私と、ハジメちゃんと、タツミくんは、少しずつ元の関係に戻っていった。



 私とハジメちゃんは、そもそも、付き合う前と別れる前とでは、さほど変わらない雰囲気だったみたいで、お付き合いを止めた事に関して【きたいわ屋】の大将や常連のオジサマ達は、

「えっ? そうだったの? でも、全然雰囲気変わらないよね。言わなきゃ、分からないままだったよ(笑)」

 なんて言うので…私とハジメちゃんは思わず顔を見合わせて…苦笑いをした。

 お互いに…元の関係にすぐに戻れるように…気遣っていたと思う。

 その甲斐あって、ギクシャクする事もなく、別れを告げてから浅い日数で、いつものように笑い合えるようになっていた。



 一方…タツミくんの方は。

 実はあの夜から…私は例の場所を避けて【きたいわ屋】を行き来していた。

 でも、ハジメちゃんとのお別れのおかげと言っていいのかどうか、サナダとの事が私の中でだいぶ薄れたので…

 また、タツミくんの路上ライブの前を通れるようになった。

 タツミくんの歌を聴きに来た人達の目があるから、自転車から降りてそばに行く事はできないけれど。

 タツミくんと目が合うと、タツミくんはふっと笑って、歌を続ける。

 私はしばらく聴いていって、一曲終わると、自転車を漕ぎ出した。

 月曜日の【喫茶KOUJI】ではまた、カウンター席で隣同士で座って、くだらない事を言い合っては、マスターに「ウンウン、やっとこの空気が戻ってきたネ(笑)」と安心? させていた。



 とある金曜日。

「勇実ぃ。オマエとタツミくんさぁ、アレの打ち上げ、まだやってないんじゃねぇの?
 今、ここにタツミくん呼んでさ、ここにいる皆で盛り上がろーぜ(笑)」

 私の上がりの時間になる頃、ハジメちゃんがニシシと笑いながら言ってきた。

「えっいいの? そういえばすっかり忘れてたよ。ありがと、ハジメちゃん。
 っていうか、だから今日味噌ラーメン無しなワケ!?」

「うひゃひゃ。バレた?
 あー、でも、一応作るつもりだけど。タツミくんが来てからな」

 そうとなれば、ちゃちゃっとタツミくんを呼び出さねば(笑) メールじゃなくて電話。

「あ、タツミくん? あのね、【きたいわ屋】においで。ハジメちゃんが、この前のライブの打ち上げをここでやれって」

 タツミくん、息を切らしてやってきた(笑) ちょうど誰も来てない時だったのでよかったと。あと私と同じで、打ち上げの事をすっかり忘れていたと(笑)

 店の中に入った途端、オジサマ達にグラスを持たされて、トクトクとビールを注がれるタツミくん(笑)

「ハイハイ、主役が揃ったところで!
 皆さん、グラス持ちましたか?
 もうひと月以上前ですが、タツミくんと勇実、無事にライブをやり遂げたので!
 曲がりなりにも、リハーサルに付き合った僕らもお疲れ様ってことで!
 今夜はいっちょ、盛り上がりましょー!(笑)」

 ハジメちゃんが乾杯の音頭を取ると、

「カンパーイ!!」

 ガチガチガチッと、皆さんからの祝杯の嵐。私とタツミくんのグラスが割れちゃうんじゃないかってほど(笑)

 自転車の私は半杯だけビールを頂いて、あとはジンジャーエールで。

 ハジメちゃんと大将がせっせとお酒のおつまみを作って、次々にカウンターに置いていくと、オジサマ達は自由に取っていった。

 タツミくんはオジサマ達にもみくちゃにされながら、リクエストされた曲を沢山歌って…その中に、あのライブで披露した【hurray】もあり、それは私も一緒に歌った。





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