traverse
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それしか…ないのかなぁ?
私も…ハジメちゃんも…付き合う限りつきまとう不安があるのなら…
そうするしかないのかなぁ…?
「ハジメちゃん…っ、私、まだ、ハジメちゃんが…っ」
「ばか。言うなよ。
決心…鈍っちまうだろ…」
手の甲で涙を拭いながら、ハジメちゃんは言った。
「でも…
……
…なぁ…
…最後にさ
…してくれる?
…オマエから…」
自分の唇を指先でトントンと叩く、ハジメちゃん。
そう、いつも、ハジメちゃんからだった。
初めての時と同じように…しゃがみこんだ。
涙でにじんだ目で、ハジメちゃんを見つめた。
そんな目で見るなってたしなめられたけど、そんなの、無理だった。
ハジメちゃんがそっとまぶたを閉じた時、私はハジメちゃんの肩に手を乗せて…触れるだけのキスをした。
何秒、そのままだったかな。
押し殺した嗚咽混じりの、私の震える唇を、ハジメちゃんは静かに受け止めていた…
「…サンキュ、勇実」
唇がそっと離れて、ハジメちゃんは私の頭をクシャッと撫でた。
路地から出た時、向こうからタツミくんが歩いてくるのが見えた。
タツミくんが私達に気付いて、早歩きになった。
「え? ハジメさん? どうして?」
タツミくんが、混乱した様子で私とハジメちゃんを順番に見た。
「また…食べに来て。コイツいる時に。
味噌、おごってやっからさ。
…じゃーな、勇実。また、明日な!」
タツミくんの肩をぽんと叩きながら、ハジメちゃんは明るく言って、去っていった…
ハジメちゃんの小さな後ろ姿が、みるみる内に歪んでいく。
「イッサ? え? どういうこと?」
まだ、事態を飲み込めないタツミくん。
「ハジメちゃんと…お別れしたよ」
「えっ」
「元に…戻ったんだよ…」
私の言葉に、タツミくんがはっと息を飲んだ。しばらくの沈黙の後、
「…そっか…
…それで…イッサは…
…元気になれるの…?」
後悔はしないのか、そう言われているようだった。
後悔、しないわけないじゃん。でも。
「…あのままだったら、きっと…私もハジメちゃんもダメだもん…
ハジメちゃん…私達に一番いい方法を…選んだんだよ…
…今すぐには…ムリだけど…
…ゆっくり…っ、忘れるから…っ。
うっ…うぅ…っ」
途中から、我慢していたやりきれない気持ちが溢れて、嗚咽が止まらなくて。
うまく言葉にならなかったけれど、タツミくんはじっと聞いてくれて…
落ち着くまで、【喫茶KOUJI】の入口の前で、私の頭をぽんぽんと撫でた。
こうして…私とハジメちゃんの恋愛は、終わった。
…