traverse
99/168ページ
「え…あ…どうして、ここに…どうしたの…?」
ハジメちゃんは、私が毎週ここで朝ごはんを食べる事を知っていたけれど、こうやって来るなんて事は絶対になかった。
この時間帯はまだ寝てるからというのと…タツミくんがいるからっていうのと…
「勇実…」
ハジメちゃんは私の顔をじっと見つめて、ばっと頭を下げて言った。
「勇実…ごめんっ…俺…オマエにひどい事を…
あのな…聞いたんだよ…オマエの友達のノリちゃんに…
…全部…」
え…ノリちゃんに?
話を聞くと、昨日、開店前の仕込みの時にノリちゃんが来て、泣きながら私の話をしたという。
全部自分のせいだから、イサミちゃんを責めないでくれと。
「全部…? 全部…聞いちゃったの…?」
「…うん…」
「…ゴメン…」
「…なんで謝るんだよ…オマエのせいじゃねぇだろうよ…」
ハジメちゃんが私の肩に手を添えた時、ビクンと体が大きく震えた。それを見てハジメちゃんは、キツそうな顔をした。
「勇実…ちょっとこっち。入口塞いでたら迷惑になる」
ハジメちゃんにそっと押されて、【喫茶KOUJI】の裏口に繋がる路地に少し入った。
心臓が…こんな明るい時間でも…ざわつく。
思わずうつむくと、ハジメちゃんが私の指を軽く握ってきた。
違和感を感じる。
なぜ…手ごと包まないんだろう…
「勇実…? 俺な…オマエの事すげぇ好きだし…ずっと…触れていたい…
…でも…オマエは…
…コワイ…んだよな…?
俺が…そういうのをオマエにぶつけるたび…ツラいんだよな…?
そんなオマエを見るの…ツラいし…でも…自分の気持ちを抑える自信もねぇし…
…そんならさ…」
ハジメちゃんが一生懸命に紡ぐ言葉に、ギュッと目をつぶった。
ハジメちゃん、ナニを言おうとしてる?
「俺達…恋人やめよう…?
元の…付き合う前の俺達に…戻ろう」
涙がボロッと落ちて、私は顔を上げた。
ハジメちゃんも…泣いてた。
…