traverse

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 (★)

「こんばんはぁ。マッサージ屋のおねえさん」

 視界が突然開けた。両目を覆っていた生温かい物、多分手が遠ざかった。

 同時に、聞き覚えのある声に背筋がゾッとする。

「あなたは…」

「先日はキモチイイマッサージを、どうもありがとうございましたぁ」

 言いながら、私の両肩を壁に乱暴に押し付ける。

 ノリちゃんを困らせていた、あのサナダだった。

「離して…っ、なんで、こんな事をっ…」

 サナダの手首を掴んで逃げようと試みるけれど、悔しいくらいビクともしない。

「キミ、ノリコちゃんと仲いいっぽいよねぇ? ノリコちゃんの事、ちょっと教えてよ」

 口調はおっとりだけど、目は笑ってない。やばい。早く…逃げないと…

「僕ね、ノリコちゃんの笑顔に癒されて…僕を案内してくれる時のあの優しさ…はあぁ、可愛くてもうたまんなくてねぇ」

 そりゃきっちり仕事をしてるからだよ、愛想の悪い受付だったら誰だってイヤじゃんか、とツッコミを入れたいのに、とにかく気持ち悪くて声が出ない。

「なのに、一昨日、あの店に男が来て…ノリコちゃんと帰ってった…
 なんなんだ? 付き合ってるヤローなのか? なんであんなヤローと? 僕だけに微笑んでくれてたのに…なんで…」

 あぁもう、なんて独りよがりなんだろ。と思った瞬間、サナダの手の力がふと抜けている事に気付いた。

 サナダの手を外側へ払い退けると、サナダがバランスを崩してよろめいた。

 路地の出口へ走ろうとした時、先程の強い力で肩を掴まれて──引きずり込まれた時と同じ──ダンッと強く壁に背中を打ち付けられた。

 痛いと思う間もなく、サナダに両手を頭の上で固定された。

 サナダの顔が近い。顎を掴まれて、身動きが取れない。



「イヤッ…た…すけて…ハジメ…ちゃん…っ」





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