「ノリちゃん？　奥の方の準備をしてて。私が、行ってくるから」

「あっ…イサミちゃん…！」

　青ざめるノリちゃんを残して、受付カウンターへ向かう。

「潤子サン、代わります」

「そうかい？　じゃ、よろしくね」

　男の会員カードを見る。サナダ。黒渕眼鏡で、ぽってり唇が目立つ。こんな夏の日にスーツだなんて、営業回りかなんかだろうか。

「準備して参りますので、こちらのソファーでお待ちになって下さい」

　サナダが腰を下ろしたところで、再びお店の自動ドアが開く。

「あっ！」

　ノリちゃんのカレだ。会うのは初めてだけど、いつも写メを見せて貰ってたから、すぐに分かった。

「あ、あの…」

　ノリちゃんのカレはしどろもどろになっていた(笑)　普段はノリちゃんが常に受付だから、ビックリしたんだろうな。

「ノリちゃんですよね？　今、呼んできます。話も…聞いてますんで」

　私がそう言うと、カレはホッとした表情を浮かべた。

　奥に戻り、ノリちゃんにカレが迎えに来た事を伝えて、潤子サンにも、ちょっと早いけどノリちゃんを上がりにしてもらえないかと頼んだ。少し位、私が遅くなってもいいからと。

「そうかい？　さっき遅番の子から連絡あってね、ちょっと遅れて来るって。それまでいてくれると、助かるな。
　ノリちゃん、ちょっと顔色悪いようだから、カレにしっかり送って貰いなさいね」

　何も知らない潤子サンは、ガハハとおおらかに承知してくれた。後で、サナダを施術し終わったら、詳しく話した方がいいのかも。

「イサミちゃん…ゴメンね…ありがとう…っ」

「いいからいいから。気を付けて帰ってね！
　お待たせしました！　ノリちゃん、お疲れ様ぁ」

　ノリちゃんは私に何度も手を振って、カレは私に何度も頭を下げて、手を繋いでお店を出ていった。

　その様子を、サナダは…雑誌を読むフリをしながら、絶望したような顔をして見ていた。

「サナダ様、お待たせしました。こちらへどうぞ」

　私の言葉にハッとして、慌てて雑誌を元の場所に戻すサナダ。ノリちゃんからの話で先入観があるせいか、ちょっとした事でも嫌悪感が募る。

「イサミちゃん、脚の方をお願いね」

「あ、はぁい」

　私の腕が上達したと胸を張っていいのか、最近潤子サンは、脚のマッサージを私に任せてくれる。

　時々、ハジメちゃんにもやってあげてて、「はあぁ～っ、気持ちいいなぁ～(笑)」って、おじいちゃんキャラ炸裂(笑)

　サナダは全身マッサージを希望していた。

　うつ伏せにさせて、背中を潤子サンが、脚を私が同時に揉んでいく。

「だーいぶ、お疲れみたいですねぇ(笑)」

　潤子サンがサナダに話しかける。

「あ…ハイ…歩き仕事なんでぇ…あぁ～っ、キモチイイですぅ…」

　はぁ…なんか、話し方もヤな感じにしか聞こえない…

　もう、ノリちゃんに近づかないでよ。カレと一緒の所を見て、やめてくれるといいんだけど。



　ご満悦な様子で、サナダは帰っていった。

　同時に、遅番の子がやっと来て、私も上がりになった。

　気分を切り替えて、明日はハジメちゃんとめいっぱい楽しもう。まだ、どこに行くかの連絡が来ないけど。

　と思ったら、仕事中にハジメちゃんのメールが届いてた。お店を出て、メールを開いてみる。





【明日、泳がねぇけど海行くぞ。
　早起き出来るか？　電車乗って行こうな(^_^)v】





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