traverse

9/168ページ

前へ 次へ


 翌日。

 大将のチャーシュー丼を温めて食べて、私は家を出た。

 今日は歩き。潤子サンのマッサージ店で体験実習。でも、ちゃんとお給料も貰える。

「おはようございまぁす」

 まだ開店前なので、裏口から入る。

「イサミちゃん! おはよー!」

「あっ、ノリちゃん、おはよ!」

 同い年の女子大生、典子ちゃん。フワフワとした笑顔で私を迎えてくれた。

 ノリちゃんは、このお店の受付や補助をする担当。

 最近付き合い始めた彼氏とも順調みたい、すごく幸せそう。

「あっ、イサミちゃん! 来たね」

 2階の事務所から潤子サンが降りてきた。ん? なんか持ってる?

「昨日、イサミちゃん誕生日だったんだって? 【きたいわ屋】の連中から聞いたよ。
 やだよもう、あたしゃ全然気付いてなくて。
 こんなのしか用意出来なかったけど、誕生日おめでとう」

 潤子サンが差し出したのは、プラケースに入った、オレンジを基調としたプリザーブドフラワー。

「わあっ…かわいい! 潤子サン、ありがとう!」

「あっはっは。なんかイサミちゃんは、オレンジって感じだからさ、ピーンって来ちゃったんだよネ」

 豪快に笑いながら、潤子サンは言う。

「えーっ、イサミちゃん、そうだったの? 知ってたら用意したのにぃ。
 あっ、じゃあ今日のお昼、おごらせて? 美味しいランチ食べようよ」

「やったぁ。楽しみ~」

 鼻歌混じりに、ロッカーに自分のカバンと貰ったお花を入れて、マッサージ師の制服に着替えた。





9/168ページ
スキ