traverse

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 ~side Hajime~



「タツミくん、ちょっといい?」

 先に帰ろうとするタツミくんを、俺は【きたいわ屋】の前で呼び止めた。

 勇実はまだ、中で帰りの支度をしている。この後の、俺との時間を承知しているはず。早く勇実に触れたい。

「はい」

 タツミくんは振り返って、俺の前まで戻ってきた。

 俺とたいして差のない背丈、大きくて真っ直ぐな瞳。

 なんとなく、これから俺が言おうとしている事、見透かしているような気がする。

「あのさ」

 俺はひと息入れてから、続けた。

「キミはどういうツモリか知らないけど。
 …いや、多分、単純に楽しいんだろうな。
 でも。
 アイツと何かやるの、もうこれっきりにしてくんないかな。
 キミに味噌をあげるのも…今日で最後な」

 言い切ったら、嫉妬丸出しの自分が情けな過ぎて、俯いてしまった。

 しばらくの沈黙の後、ちらっとタツミくんを見て、俺は驚いた。

 頭を下げている、タツミくん。

「ごめんなさい、ハジメさん。
 俺、無神経でした。
 もう二度としないんで、許して下さい。
 イッサの事も…責めないでもらえませんか」

「え…や…まぁ…ウン」

 彼はやっぱり分かっていた、俺がどんなに勇実を好きで、離したくないのかを。

「いや…キミが俺達にすごい気ぃ遣ってたの分かるし…
 あー、もー…情けねぇな。勝手にヤキモチ妬いて。バカみてぇ」

 はぁーっ、と大げさに溜め息をついてみる。

 そんな俺の様子に、タツミくんはフフッと含み笑いをして、こう言った。

「俺、好きですよ。ハジメさんとイッサ。二人一緒なのを見ると、ほっとする」

 まただ。彼は勇実と同じだ。なんの考えもなしに、好きって言う。その素直さが、俺には眩しい。

「はは…そうか? じゃあ、まぁ…応援頼むわ」

「はい」

「あ、味噌はもう出せねぇけど…また、食べに来てよ」

「フフッ、はい。イッサがいない時に、おじゃまします」

「え? 別にそこまでしなくても… まじで、気ぃ遣いだよなぁ。いーよ、来たい時に来てくれよ」

 タツミくんはそれには答えず、ペコリと頭を下げて、この場を去っていった。

 彼の背中が小さくなっていくのをボンヤリ見つめていると、俺の後ろでガラッと引き戸が開いた。

「ハジメちゃん? タツミくん、帰っちゃった?」

 俺の勝手なヤキモチだけど、出来ればもう、勇実の口から彼の名前を聞きたくなかった。

「…うん。勇実、こっち」

「…ウン…」

 暗がりでも分かる、勇実の真っ赤な顔。

 勇実の手を握って、そっと裏口へ引っ張った。





 彼が、勇実を好きじゃなくてよかった。





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【traverse】中間雑談・6





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