traverse
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タツミくんがお客さんの方へ向き直り、
「えー、沢山の方々に足を止めて頂いて、恐縮です!
後藤樹深です。いつもは違う曜日、もう少し遅い時間帯でやっていますが、諸事情により…新しく作った歌を、今、ここで披露させて下さい」
と言うと、ざわめきがピタッと止んだ。
「こちら、曲作りを手伝って貰った、今日一緒に歌ってくれる、僕の親戚、イサミです。どうぞよろしく」
タツミくんがそんな風に私を紹介したので、私はビックリしてタツミくんを見た。
タツミくんはふっと笑って、何か言って、と顎で誘導する。
「あ、えと、イサミです。タツミ…お兄ちゃんのワガママに付き合わされて、こうして前に出てきちゃいました。これきりなので、どうかお許し下さいっ」
勢いよく頭を下げると、笑いと共に温かい拍手が私に降りてきた。
そーっと頭を上げると、ナギサとバチッと目が合った。
ナギサは…ホッとした顔をしていた。タツミくんのウソを信じたみたい。
「一夜限りだけど…ユニット名付けようか?」
本物のライブのMCさながらにタツミくんが喋るので、クスクス笑いのたえない観客側。
「えっ、今?」
「うん。実は、もう考えてあるんだよね(笑)」
「えーっ、また一人で暴走するんだから…(笑)」
「traverse」
「え? なんて?」
「トラバース。横切るとか交差するって意味。ここみたいに…道だけじゃなくて…人も…出来事も…全部引っくるめて」
おぉーっ、とお客さん達が感嘆の声を上げる。
「うん…まぁ…いいんじゃない?」
「ほんとにそう思ってるの?(笑)」
「思ってますって(笑)」
私達の漫才みたいなやりとりで、だいぶ温かい雰囲気になってきた。
「ではでは…聴いて下さい。曲名は…
【
私が付けた曲の名前を、タツミくんが静かに言う。
私はドキドキしながら、タツミくんのギターストロークでの前奏を聴いていた。
…